尻歩きする人 ―― shiriaruki-ller ――

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 あれから2週間。「はくあいホーム珠野」では、怪我を負う人も、廊下を這いずる音もなくなったと、愛歌から介護高齢課に電話があった。  義実は相変わらず、人の顔に黒い(もや)がかかって見える。画面越しや写真、動画では(もや)が見えないから、不思議だ。この見え方は多分、一生付き合わなくてはならない。なぜ自分だけ、と自暴自棄になるかもしれない。  でも。 「よっちん、おかえり! ご飯にする? カレーにする?」 「何その選択肢! ただいま、一希」  命を救ってくれた、今は亡き祖父。人の顔に黒い(もや)がかかって見える義実を受け入れてくれた両親。黒い靄が無い一希。手を差し伸べてくれた家族がいる事実を思い出すだけで、これからも生きてゆけると信じたい!
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