尻歩きする人 ―― shiriaruki-ller ――

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「さっきの人、“はくあい”の職員だよね?」  愛歌が介護高齢課を離れると、先輩職員の須川純子に声をかけられた。  義実にとって純子は、黒い(もや)が顔にかかっているが、かなり見やすい部類に入る。子どもの「ママ大好き!」オーラが黒い(もや)を弱め、顔を見やすしてくれる。純子の黒い(もや)の原因は、離婚した元夫の強過ぎる執着だ。 「須川さん、ご存知なんですか?」 「うん。実は」  デスクの固定電話が鳴った。義実よりも早く純子が電話を取り、一瞬で緊迫した雰囲気になる。 「ごめん。息子が、こども園で熱を出しちゃった。また明日話すね」  純子は周りの職員にも頭を下げながら、謝らないでよ、となだめられて早退した。
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