尻歩きする人 ―― shiriaruki-ller ――

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 その日の夜、普段は残業をしない一希が遅くに帰ってきた。 「俺、明日休むわ」  一希は珍しく一方的に喋り、祖父が生前に溜めていたファイルを引っ張り出して居間のテーブルに並べた。 「市の広報?」  義実は感心した。一希は、ファイリングされた広報を破らないように丁寧に、且つ速く(めく)る。 「俺も手伝う。何を探せば良い?」  義実が話しかけると、一希の手が止まった。一希はシャツの裾で目元を拭った。 「祖父(じいさん)は、広報に挟まれていたチラシも一緒に保管(とっ)ていたんだ。珠野は昔から、事件の犯人が捕まらないと不審者情報という形でチラシを入れていた。どの号に入っていたか書き出したい」 「了解」  一希が指定したのは、昭和50年台から平成31年までの広報。義実は黙々と作業するのが苦痛になり、気を紛らわせようと勝手に喋る。 「陣野さんは、綿田さんという人と施設長には怪我させようとしなかったって。ふたりとも左利きみたいだよ。陣野さん、右利きの人に逆恨みでもしてたのかな」
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