1 共同生活

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 指と指の間を目一杯開いて、差し出す。  指輪を壊してしまうと遠慮する割に手は大きくなく、日々の鍛錬が染み付いていた。 「ちなみに今は嫌がらせで、はめて差し上げましょうかと言ったのです。爪、割れてますよ」 「あっ! そ、そうなのか! 賢者殿の嫌味は遠回しが過ぎて分からない。汚い手をすまなかった」 「……別に汚い手とは言ってません」  ミトラスは引っ込めようとした腕を掴み、口元へ寄せた。そして傷口に向け小さく唱えると、みるみる修復されていく。  セミラは不思議な温かさに瞬き、言葉を失う。 「魔法嫌いの貴女は施術を拒むと聞いていますが、これをはめる為には我慢して下さい」  指輪はセミラに触れると、彼女のサイズに調整されてピタリと吸い付いた。  セミラは左手を天井へ翳し、繊細な装飾を確かめてみる。 「獅子?」 「えぇ、金獅子が彫られてます。貴女の別名でしょう?」 「貴殿はーー鴉か?」 「そうですよ。それではこれから宜しくお願いしますね。くれぐれも僕の邪魔はしないで下さい」  こうして2人の同居生活が始まるのだった。
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