3 祭り

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3 祭り

「祭りに参加しろと? この僕に?」  セミラは屋敷に帰ると書斎へ直行し、直談判する。 「そうだ。五穀豊穣を祈る祭典に大賢者である貴殿を招きたい。それと陛下も視察にいらっしゃるそうだ」 「陛下が? これまでそんなこと無かったのに……」  ミトラスは研究の手をとめ、共用部である部屋へセミラを伴う。先にソファーへ腰掛け、彼女にも着席を促した。 「この際、単刀直入に伺います。何か企んでいるのでは?」 「騎士団が祭りの警護を任されたのだ。それで丁度いいからとーー」  セミラは鞄を膝の上に置き、漁る。中身の整理整頓が行き届かず、図鑑の背表紙が覗く。それも1冊、2冊ではない。ミトラスの眉が上がった。 「図鑑をお貸しするのは構いません。ただし丁寧に扱って下さい」 「それはすまない! この鞄は図鑑を入れるように買ったのだが、大きさが合っていないのかもしれないな。図鑑を持ち歩くのに最適な品があれば教えてくれ」  セミラが潔く非礼を詫びる。 「はぁ、普通は図鑑をそんなに持ち歩かないです。それほど森がお気に召しましたか?」 「あぁ、この森はとても美しいよ。私を拒む険しい面もあるが、色々と学びをくれる」 「……」 「どうした? 賢者殿?」 「いえ、なんでもありません。探しものは見付かりました?」 「あ、あぁ、そうだった」  セミラが再び中身に視線を落とすと、ミトラスはお茶を淹れるため離席する。 「お茶はお飲みになります? ついでなので宜しければ」 「いいのか? ならハーブティーがいいな」 「茶葉の指定は出来ません」 「あれから他のハーブティーも飲んでみたんだが、賢者殿のハーブティーが一番美味かった。やはり魔法で淹れるからか?」  その言葉でミトラスはハッとした。
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