3 祭り

2/9

25人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
 丁寧に旨味を抽出しようとしている姿が茶器へ映り込む。  まさかセミラの為に手間を惜しまないのかと過ぎり、いいや違うと念じる。ミトラスはわざわざ魔術で茶を入れ直して席へ戻った。 「貴殿と私で仮装大会に出ようと思う」 「ーーは?」  セミラはティーカップを受け取り、仮装大会の案内を差し出す。流れでそれを目にしたミトラスが見開く。 「貴女、正気ですか? 大賢者と騎士団長が見せ物になるなんて」 「陛下は花の精に仮装するそうだぞ」 「はぁ?」 「貴殿はどうする? 私はだな、この森で見掛けた猪に仮装したいとーー」 「待って下さい!」  決定項として進んでゆく会話の流れにミトラスが異議を唱える。 「百歩譲って来賓として祭りに携わるのならいいでしょう。しかし、こんな下らない催しに協力は致しかねます。まったく冗談じゃない!」 「あぁ、冗談など言ってない、本気だ。女王は騎士と魔術師を身近に感じて貰う機会だと仰っている。何故なら仮装大会は夫婦で出場するのが参加条件で、互いの良い面を披露し合うからだ」 「……はは、地獄のような祭りですね。僕は猪に扮した妻について公衆へ語らなければいけないと?」  眉間を揉み、項垂れるミトラス。  一方、セミラは口角を上げる。 「猪が不満ならば熊や狼でもいいぞ」
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加