3 祭り

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 セミラは緊張を飲み込む音を気取られたくないのでハーブティーで流し込む。 「それで条件とは? 勿体つけないで早く教えてくれ」 「貴女に試薬を試して頂きたい」 「ーーえ?」 「まだ安全性を確立していないのですが。こちらの薬は我々魔術師にとって、より良い未来を切り開く可能性があるのです」  ミトラスの手の平に小瓶が輝き現れる。彼は空っぽとなったセミラのカップへおかわりを注ぎ、その後で瓶の中身を混ぜた。  金色のスプーンがセミラの心も掻き混ぜる。 「無味無臭です。毒性もありませんよ、理論上は」  副団長が噂したよう、これが惚れ薬であるならば毒でしかない。それも心を蝕む劇薬だ。  セミラは固まってしまう。 「おや? どうかされましたか? 急に顔色が冴えなくなりましたが」 「何故、私で試す?」 「毒見も騎士の領分では? いきなり女王陛下で試せないでしょう?」  セミラは胸に手を当てて、深呼吸。ミトラスの挑発に揺らいでいる場合ではない。  そうだ、自分が被験者となり証明してやろう。こんな薬を飲んだところで人の気持は変わらないのだと。 「どうします? 強要はしませんよ」 「飲む。飲めば祭りに、仮装大会に出るんだな?」 「えぇ、約束します」  女王もいる祭場でミトラスの画策を暴くことがセミラの目的。 (私がこの男に惚れるなど、万が一もないはずだ)  今日までの厳しく苦しい鍛錬を振り返り、怯むな、臆するなと鼓舞する。  セミラはじっくり観察する瞳に見守られつつ、カップを飲み干したのだった。
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