3 祭り

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「よし、買ってこよう」 「私が行きます」  ミトラスがさっと進路を防ぐ。 「せっかく若い女性で賑わっているのに、猪が列に並んだりしたら営業妨害ですよ」  日陰をセミラに譲り、くくっと喉を鳴らす。漆黒の外套を纏わない分、表情と嫌味が柔らかい気がしないでもない。  よろしく頼むと任せれば手を軽く翳した。  そして、行儀よく最後尾にミトラスがつくと黄色い悲鳴が上がる。 「はぁ、仏頂面の賢者殿も乙女に囲まれれば形無しだ」  握手を求められれば応じ、手品師みたく指を弾き花を出す振る舞いを前にセミラがぼやく。 「その愛想の良さをちょっと私へーー」  不満を連ねかけ、毛むくじゃらの手で口を覆う。 (愛想を私にも振り撒けと言おうとしたのか? まさか!)  そんなはずあるはずない、両頬を叩き、気の迷いを潰す。 「あ〜あ、あたしが賢者様のお嫁さんになりたかったなぁ。ううん、あたしだけじゃなく街の娘みんなが言ってます」  続いて頬を打つ痛みより鋭い感覚が襲う。祭りのために咲き誇った花達は、どうやら猪に嫉妬している様子。 「大賢者様と騎士団長様の結婚はおとぎ話みたいでステキですけど……」  甘い夢をみせてはくれない、そう言いたいのだ。セミラに反論する余地はなく、ミトラスも笑顔で濁すしかない。 「結婚生活は楽しいだけではありませんからね」  無意識に耳を澄ませ、セミラは彼の発言を拾っていた。  当たり障りがない一般論で好奇心を掻い潜るミトラスが傾げる。 「怒ってます?」 「……どうしてそう思う?」 「僕、こうみえて女性の機微には敏感ーーっ!」
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