5 祭り3

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 ミトラスの腕の中は静かで、広い森のように凪いでいた。セミラは目を閉じると身体を預けてみる。 「あの薬は本当に惚れ薬なのか?」  温かく落ち着ける香りを吸い込めば、素直な言葉が口をつく。 「貴殿が女王へ薬を盛ろうとしていると噂を聞いたんだ」  ミトラスが触れる箇所は汚れが落ち、髪は輝きを取り戻して肌の傷も癒えた。 「その惚れ薬を試しに貴女へ飲ませたと? だとすると薬の有用性は否定されましたね。現に貴女は婚約破棄をしようとしてますので」  目元をなぞり、ミトラスは瞳を開けてとセミラを誘う。 (ここで目を開ければ……私は)  何かが変わってしまう予感にセミラは胸に手を当てて深呼吸。相変わらず薬指が締め付けられ痛むものの、このままで構わない。ミトラスと同じ痛みを感じていられるのなら。 「まぁ、いいです。目を瞑ったまま聞いて下さい。貴女は僕が惚れ薬など作成すると思います?」 「当初は魔術師の立場向上を大義名分にして作ると思った」 「挙げ句、そんな薬を頼らねばいけないと? ご存知ないでしょうが、僕は好意を持って頂く機会が非常に多いのですよ」 「いいや、知ってる。街の娘はみんな貴殿に見惚れていた。女王陛下以外であれば、すぐ夢中になるだろうな」 「貴女は?」 「私?」 「大賢者が作った惚れ薬も効かないなら、どうすればいいのでしょう? ご教示願えますか?」  額と額をくっつけ、ミトラスはセミラの髪を梳く。 「何もかも惚れ薬のせいにしてしまえば楽なのに、貴女は何処までも真っ直ぐで。僕はそんな貴女を好ましく感じているのです」
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