1 共同生活

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「見るからに意地の悪い魔法使いが住んでいそうだ」  お伽噺に登場しそうな歴史を漂わす佇まい。壁に這う蔦を辿ると煙突があり、もくもく煙が上がっている。  セミラの頭に得体の知れない物体を煮込む映像が浮かび、率直な印象を呟く。 「外で寝てくれて構いません」  ミレトスは振り向かず扉を開け、釘を刺した。 「はは、この距離で聞こえるんだな」  悪びれず返せば、鋭い視線を寄越される。 「悪い魔法使いは地獄耳と相場が決まっているのでは? それで騎士は脳筋で薪割りが得意です。あちらをお願いできます?」  庭に大量の薪が積んであった。最初からセミラにやらせる気だったのだろうか。 「働かざる者食うべからず、と言う訳だな」 「夫婦は助け合うものでしょう? 助かりますよ、僕はご覧の通り非力でして。薪を割り終えたら部屋へ通しますので声を掛けて下さい」  返事を待たず、扉が閉められた。 「おいおい、それだけ乱暴に閉められるなら、力は有り余ってるんじゃないか? 大賢者様」  ーー沈黙。 「地獄耳じゃなく、都合の悪いことは聞こえないだけか」  なにもセミラだってタダで居候する腹じゃない。側に立て掛けてある斧を手に取り、大きく振りかぶった。  なんと彼女は重装備を解かないまま、薪を割り始める。 「こちとら朝から晩まで鍛錬しているんだ。この程度、朝飯前だーーよいしょ!」  スパァン、スパァンと小気味よい音が森中に響く。  セミラは女王がこの結婚を諦めてくれるのを願い込め作業に没頭するうち、皮肉にも夫婦で冬を越せる相当量を割っていた。 
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