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「なんで?」
わたしは夢でも見ているのかと、よく漫画やアニメでやるように目をこすった。アイシャドウとマスカラの感触。また、やらかしてしまった。何故かわたしは、メイクの存在を忘れがちなようだ。これでどうやって今まで、大人の女をやって来れたのだろう? いや、そんな事はどうでもいい。
「なんで中学校がここにあるの?」
「並木道を通って来たからだろ?」
マコトは事も無げに答える。彼はわたしを自転車から降ろすと、片側だけのスタンドをガコンと足で立てた。風が吹けば倒れてしまいそうな不安定さだったが、マコトはもう用は済んだとばかりに自転車への興味を失っている。颯爽と乗り捨て、光に集る虫のように、白く発光する自動販売機に近付いて行った。わたしは可哀想な自転車への罪悪感に後ろ髪を引かれながらも、彼に付いて行く。
(なんだろ、喉が渇いたのかな?)
マコトはポケットから直に小銭を取り出し、投入口に差し込み、迷いなくボタンの一つを押した。たったそれだけなのに手品みたいに見えるのはどうしてだろう? ゴトン、と缶が落ちてくる。……冷たいお汁粉だ。
チカチカと光が点滅し、自動販売機から安っぽいメロディが流れた。たまにある、当たりくじ付きの自動販売機。ルーレットで四つの数字が揃えば当たり。もう一本飲み物が貰える。わたしは一瞬だけ自分の置かれた状況を忘れて、その運試しの結果をわくわくと見守った。
数字が回る、回る、止まる。
4、4、4、4。
黒い画面に、赤い文字で浮かび上がる、4444。妙に不吉なその連番に、わたしは思わず身震いした。4は死を連想させる忌み数だ。こういうスロットの結果としては、あらかじめ排除しておいて欲しい。普通当たりといえばラッキーセブンではないだろうか。
――そういえばあの都市伝説も、4時44分44秒に合わせ鏡をするというものだった。友人は鏡の世界なら、こっちの8時16分16秒に違いないと言っていたけれど。
「当たりだな」
プシュッとプルタブの開く小気味いい音。マコトがお汁粉を、お茶のようにぐいっと呷る。ごくりと跳ねる喉、くっきり浮かぶ喉仏の形に、わたしは何故か唾をのむ。
「あ、当たったのに、もう一本選べないね?」
わたしは彼に視線を奪われていたことを悟られないよう、自動販売機に顔を寄せて、くじについての説明書きを読んだ。しかしマコトが邪魔するように前に出てきて、何故か自動販売機の側面に手を置き……こじ開ける。
「えーっ!? 何してるの!」
まさか当たりの分が出てこないから、直接取り出そうとしている? そもそもどうやって開けて……
が、その思考は長くは続かなかった。自動販売機の中に、想像もしない別の空間が広がっていたことに、呆気にとられる。
(なに、これ)
振り返ったマコトはニヤリと笑って、わたしの手を取り、中に入っていった。
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