微光

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か細い光が私を微かに照らした。 微かな光に手が見えた。 これは私の手らしく、私の想いの通りに動く。 その光にに手をかざした。 その手に微かな光が隠れてしまった。 どこか恐ろしくて手を下ろした。 足元を見た。黒く、影になっていてよく見えなかった。 1歩、前に進んだ。 何にもぶつからなかったが、周りに何かある訳でもなさそうだった。 この場所に誰もいないことが恐くなった。 誰か、と声を上げたが、私の耳にさえも届かなかった。 声が出ないのだ。 あれ さっき私は前に進んだと思っていたが、それは前なのか? 私が気がついていないだけで、後ろなのではないか? 手を伸ばしても、何にも届かない。 私は恐くなりしゃがみこんだ。 手を足元にやった。 そこに地面はあった。 足もあった。 けれど前がどちらか分からない。 これでは進めない。 ライトだとか、何か光が欲しい。 けれどその在処も、あるのかさえも分からない。 そんな無いかもしれないものを探せるのか。 こんな、前に進むのもままならないというのに。 もう進めない。 とうとう、か細い光さえ消えてしまった。 もう何も見えない。 あたりは真っ暗で、どこに手があるのか、足があるのかも分からない。 立てない。 天井があるかもしれない。 1歩踏み出した先は崖かもしれない。 私は今、崖の上に座り込んでいるのではないか。 立ち上がったら、脚を踏み外し、落ちてしまう。 私はうずくまることしか出来ない。 誰か、助けて欲しい。 そう、ただ考えた。 「(きよ)!」 誰かの声がした気がした。 でもこんな断崖絶壁の場所に来られるわけがない。 「澄、澄はひとりじゃないから」 誰かの声が段々と近づいてくる。 眩い光に私は包まれた。 「澄、大丈夫だから」 光の先には、少女が居た。 その少女はライトで私を照らしていた。 「ちゃんと未来はあるから」 少女はそう言うとライトの電源を切った。 すると少女は逆光で顔が見えなくなってしまった。 「だから、生きて」 目を開くと、まず白い天井が目に入った。 私はベッドに眠っていた。 そこは、病院だった。 私は自殺未遂で気を失っていたようだった。 そんな私は今、五体満足でこの場所に生きていた。
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