黒板奇譚

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 うん、やっちゃおう。そーだそーだ。  みんなの決断は早かった。  銀坂がバリアを張る。光寺が宙から魔法のスティックを取り出して、黒板に向ける。 「願い奉りてはここらの三十名に付与される不死の時間よ————」 「緑がかりの黒板を許すまじ、混じり物の一切を排除した純黒よ————」 「「————出よ/染まれ!!」」  ずうん。 「————こんにちは。黒の悪魔です。」 「「「なんか出たーっ!!!」」」  黒板が、文字通りの“純黒”に染まる。  そしてその瞬間、ぞわぞわと黒板から姿を現したものがあった。  上から下まで真っ黒。黒、黒、黒。  美しい五本の指を折り畳んでお辞儀をするその姿は、蠱惑的でもあり本能的な畏怖をも掻き立てる。  本物の————悪魔。 「あっ!お前は、……もしや!」 「どうしたんだ島崎。」 「なんでもないっ!」 「「「ずこっ!!!」」」  学級委員の島崎のよくわからない一幕もあったが、とにかく今は緊急事態。 「ひとまずは、中学生のみなさん。私の封印を解除してくださったことにはお礼を言いましょう。そして————鏖殺の時間です。みなさん仲良くお陀仏になってください。」 「「「ギャーッ!悪魔がなんか怖いこと言ってる!!」」」  案ずるな!一分間の命は僕が保証する!  とやたらカッコよく銀坂が叫ぶ。  で、でもまずいよ!黒板の色を緑に戻したいのに悪魔に魔力導線を妨害されててあわわ無理どうしようちょっと緊急事態!!  と珍しく光寺が切羽詰まった顔で叫ぶ。 「光寺お前ふざけんなよ!」 「無能でごめん!」 「僕のほうはカッコ良すぎて御免なさい。」 「銀坂もふざけてないで何とかしろよ!」  何とかできるならもうやってるよ……と言う魔女と死神に、クラスメイトのブーイングが飛ぶ。 「だから俺、止めようか迷ったんだよ!」 「死神バリアが壊れたらどうすんだ僕らの命!」 「みんなお陀仏になっちゃうじゃねーか!」  混乱の渦に叩き込まれる教室。  黒の悪魔は、その様子を余裕の表情で高みの見物。  さて、一分間待って、そのあとゆっくりいただくとしますか。カップラーメンより早いとは、お手軽メシですねぇ……などとよくわからないことをのたまっている。 「悪魔を封印し直すんだ!」 「どうやって!」 「黒の悪魔とはすなわち、黒という概念体である……その力の源は“黒そのもの“と“黒という名前”の両方が合わさった時に発生するエネルギー……つまり、『黒板』の“色“と“名前“を不一致にすればあいつは力を失うこととなる……よしわかったぞみんな!黒板を緑色とか青色とか別の色に塗り替えるんだ!」 「絵の具で?」 「ペンキとか?」 「ダメだよ!悪魔の妨害を掻い潜れるだけの実力を持った魔法使いとか天使とかそういうやつを連れてこないと!」 「一分以内に!?」 「あと十七秒以内に!!」 「ちょい待て!いつの間にそんなギリギリになってんだよ!?」 「こんなふうに悠長に会話してる間にだよ!」 「そっか!なるほどな!」  あわあわあわ。どうしようどうしよう。どうしようもないよ死んじゃうよ。  その時。  ……大慌ての生徒たちと余裕の悪魔の両方を驚きで吹っ飛ばしたのは、今まで教室の後方で勝手によくわからないことをしていた実験者たちだった。
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