第二章 

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─14─  奈々未の手作り弁当を食べ終え、コーヒーを淹れる。  デスクの引き出しに、三種類のコーヒーを常備している。今日はこれから、例のところに電話をしなければならない。気合を入れる為にも、ブラックを選ぶ。  ドリップコーヒーにお湯を注ぎ、デスクへ。  チョコレート一粒と、コーヒーを飲むこの一時が、精神を落ち着かせる大事な時間だ。これで、昼からの仕事も頑張れる。    心が落ち着いたところで、上着を着て、スマートフォンを手に外へ。  幸い雪は降っておらず、寒さもそれほどではない。煙のような薄い雲が空全体を覆っていて、太陽は隠れている。  呼び出し音が一回、二回、三回……。  心の中で、このまま出ないでくれたらと、かすかに期待する自分がいた。 「もしもし──」 「あっ……。深瀬信二さんの電話でお間違いないでしょうか。私、咲原健太郎と申します。失礼を承知でお電話させていただきました」 「ああ、あなたが咲原さんですか」 「えっ?」  なぜか、俺を知っていた。 「驚かせたのは、私の方でしたかね」  深瀬さんは、「ほほほ」と朗らかに笑う。 「実は昨日、大崎さんから連絡をもらっていましてね。もしかすると、咲原さんという方から、電話が来るかもしれないから頼みますと」 「──そうだったんですね。気を使っていただいたようで、ありがたいです」  なんて親切な人なんだと、胸が熱くなる。 「ある程度は大崎さんからお話は聞きましたよ。大変みたいですね」 「──はい。それでなんですが、仁崎さんのお話を聞けたらと……」 「もちろん、いいですよ。お役に立てるかわかりませんが。どうしますか? このまま電話で説明しましょうか? それとも、直接会ってお話しましょか?」 「あ、ああ……。僕はどちらでも構いません。深瀬さんに──」  深瀬さんは俺を遮るように、「ほほほ」と朗らかに笑い、 「じゃ、私の家に来ていただけますか?」 「あ……はい。わかりました」  住所を教えてもらい、早い方がいいだろうと、今晩、さっそくお邪魔することになった。  初めて話した人を、その日に自宅に招くとは。紹介してくれた大崎さんが余程信頼のおける人なのか、それとも、ただ警戒心が欠如しているだけなのか。  だが、声から感じ取ったのは、穏やかで終始落ち着いていたということ。どっしり構えていて、余裕がある。初めて話す人とは思えないほど親しみやすさがあった。  電話を切ってから、奈々未にもすぐ連絡を入れた。急な展開に驚いた様子だったが、早いに越したことないと、賛成のようだった。明日、大崎さんにお礼を言ってほしいと、頼み、電話を切った。    どんな話になるかわからないが、当時のことをよく知る人に話を聞けるのは貴重だ。有益な情報であることを願い、事務所へ戻った。     
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