第一章 

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─4─ 「おはよう」 「──おはよう」  いつものように、喫煙室で二人と挨拶を交わす。しかし、どうも新嶋の様子がおかしい。 「新嶋、どうかしたのか?」 「ちょっと、見てやってくれ」  戸田が、浮かない顔の新嶋の手からスマートフォンを取り、俺に差し出した。 「えっ? 何? どうしたんだよ……」  スマートフォンを受け取り、画面を確認する。 「お、おい。これって……」  思わず二人の顔を見る。  言葉に詰まり、無意識にスマートフォンを握り締める。 「わかったか?」  新嶋の顔は青ざめ、目の下にクマが出来ている。この様子だと、眠れなかったようだ。 「わかるもなにも……」  写真をスクロールする。 「ちょっと、これ! 俺達が写ってる写真、全部じゃないか!」 「うん。一枚だけってならわかるんだけどさ、全部の写真なんだよ……」    新嶋は腕を組み、肩を落とす。 「俺も見せてもらった時、寒気がしたよ」  昨日、十枚以上撮った写真の内、三人が写っている写真、全てに異変が起きていた。 「確かあの時、笑ってたはずなのに無表情だし、顔色も死んだ人間のように青白いよな。何よりこの……口」  自然とスマートフォンを遠ざける。 「なあ、それ……縫ってあるみたいだよな」  新嶋の言葉で、喫煙室の温度が下がったかのように空気が一変した。  確かに三人の口には、黒い線が縦に入っている。  新嶋の言う通り、これは、『縫い目』だ。  それも、雑で荒い縫い目……。 「これってやっぱり、あれ……だよな?」  新嶋が確認するように俺の顔を見る。 「心霊写真……」 「ああ! なんでこんなもん撮れちゃうんだよ」  頭を掻きむしりながら、新嶋はタバコに火をつける。 「昨日、寝る前に写真を確認しようと思って、布団に入りながら見てたんだよ。そしたらこれを見つけたんだ。寝る前だよ? 電気も消したし、あとは目を瞑れば眠れる状態だったんだよ! それがこれだよ……」  新嶋は息継ぎをせず一気に吐き出した。彼はそれから怖くなり電気をつけたが、結局朝まで眠れなかったそうだ。 「こういうのって、どうしたらいいの? お祓いかなんかしてもらったほうがいいの?」  新嶋は今にも泣き出しそうな顔をしている。 「心霊写真ってさ、その人に恨みがあるとか、何かの警告だとかよく言うけど、これもそれなのか?」  戸田は、眼鏡を制服の裾で拭きながら恐ろしい一言を言い放つ。 「やめろよ、怖いじゃないか」 「咲原にも怖いものあるんだな」 「それどういうことだよ」 「いつも穏やかにしてるし、なんでも冷静に捉えそうに見えるからよ」 「それは、戸田も同じだろ」 「俺は、不気味だが怖くない」 「ちょっと待ってよ! もし何かの呪いだったらどうするんだよ! 俺たち死んじゃうの?」  新嶋の悲痛な訴えに、俺と戸田は目を合わせ、思わず吹き出してしまった。 「新嶋、よく聞け。こんなものはだいたい、何かの影とか何かの反射とか、カメラの故障とかなんだよ。呪いなんて存在しねーよ」  戸田の言うことも一理ある。たが、これはちょっと毛色が違うようにも見える。自然の現象と結論づけるには、あまりにも不気味すぎる。 「だけどさ、三人とも同じだし、こんな風に縫ったみたいに写る?」 「俺もこれに関しては、不思議に思うよ」  テレビで見かける心霊写真のように、よく見れば霊に見えなくもないだとか、それを心霊写真として見るからわかるような代物ではない。  見た瞬間に異変に気づき、負のイメージが頭の中に浮かんでしまうのだ。 「よく言うじゃないか。怖がれば怖がるほど幽霊は調子にのって脅かしてくるって。不気味なのはわかるけど、気にしないのが一番だと思うけどな」  戸田の言う通り、実害がないのなら放っておいても問題はないだろう。 「じゃ、この先、おかしなことが起きたり、誰かが体調崩したりした場合は、お寺とか神社に持っていこう。それでいいか? 新嶋」  怖がる新嶋に近づきスマートフォンを手渡す。 「うん、わかった。何かあったらすぐ教えてよ」 「それは約束しよう。戸田もそれでいいか?」 「ああ、もちろん。お前、そんな写真持ってるの怖いだろ。俺に送って自分のは消しちゃえ」 「えっ? いいの?」  新嶋の目が輝く。 「俺は怖くないからな」  戸田が会社で女性人気が高いのは、このさりげない優しさと安心感が所以だろう。男の俺でも頼りたくなってしまう。 「さあ、気を取り直して働くか」  あの不気味な写真が原因で、楽しかった思い出に傷がついてしまった。思い切って家に招いたというのに。  奈々未にはこの話は伏せておいた方がよさそうだ。あえて怖がらせる必要はない。それでなくても、新しい土地に来て神経をすり減らしているんだ。余計な心配はさせたくない。         
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