第一章 

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 すっかり暗くなった仕事帰り。  一ヶ月前ならこの時間でも夕日が残り、この町の広い空をオレンジ色に染めていた。  薄暗いなか退社するするのは、いつもと同じ時間でも長時間働いた気分になり、疲れが増す。  運転中、あの写真のことを思い返していた。あの場では言わなかったが、どう考えてもおかしな写真だ。新嶋の言う通り、一枚や二枚なら、まだわかる。しかし、俺達が写っている全ての写真に同じ異変がある。この、『同じ異変』というところも薄気味悪さが増す要因だ。  生気を感じさせない青白い顔に、黒い糸で縫われたような口。ただ青白いだけなら照明などが原因だと考えることもできるが、あの、縫ったような口は、説明のしようがない。それに、撮った場所が俺の家だといもの不安をか掻き立てる。    目の前の信号が、黄色から赤に変わる。一瞬、行ってしまおうかとアクセルを踏むも、まもなく免許更新。ゴールド免許を剥奪されるのはごめんだと、ブレーキを強めに踏む。  どうしてあんな写真が撮れたのだろうかと、赤く光る信号を眺めながらぼんやりと考えていた。その時、ふと、新嶋の着信音が頭の中で再生された。   「あれも、不気味だったよな」  自分で呟きながら、背中のあたりがひやっと冷たくなるのを感じた。  信号が赤から青に変わる。  言いようのない不安が胸をざわつかせ、早く里来を抱きしめたくなった俺は、深くアクセルを踏み込み、家路を急いだ。
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