記者会見

2/6

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
 桂総理の、爆弾発言ともとれるそれを聞いた取材陣は、皆驚くばかりであった。総理大臣が、週刊誌に情報提供するなど、前代未聞。それどころか、総理大臣が、週刊誌に個人的に連絡を入れることなど、普通ならあり得ないのだ。これは、明らかに、政治の情報を、個人的に私的機関に漏洩した、という事実でしかないのだ。 「皆様、静粛に。落ち着いてください。説明を続けます。いいですか?」  桂総理がそう言うと、取材陣は、声を止め、桂総理の一言一言を聞き漏らさないようにと、集中力を高めていった。一帯が静かになったことで、桂総理は、説明を再開した。 「いま、皆様は、どうして、私が週刊誌に情報提供をしたのか?そう考えていると思います。その理由は、いち早く国民の皆様に、私の考えを伝えたかったからです。私の考えとは、週刊誌に掲載されていた記事の事では、ありません!」  桂総理の言い方は、矛盾していた。自分から週刊誌に情報提供をしたのに、総理自身の考えは、その記事の通りではない、と、言っているのだ。それならば、何故、総理自ら週刊誌に情報提供をしたのか。国民に自分の考えを伝えたかったから、というのは、全く理由になっていない。取材陣の表情は皆、完全に、意味が分からない、と言っているようだった。 「えーっ。今の私の言い方だと、分かりにくかったと思いますので、もう一度、今度は、分かりやすく説明をさせていただきます。  今回の週刊誌の記事は、あくまでも、治安対策についての対策としての、一つの案として、ということです。確かに、現在の日本の治安に対して、警察の数は圧倒的に足りていない。だから、いち早く、治安に数で対抗する手段として、自衛隊や消防に応援要請をする事は、確かに効果があるかもしれない。  だが、まずは、基本的な事から考えてください。どうして、犯罪者の数に対して、警察の数が圧倒的に足りないか?どうして、自衛隊や消防に、応援要請をしなければならない状況になっているのか。そこのあなた、分かりますか?」  説明の途中に、急に指を指されながら桂総理に質問された記者は、まるで不意打ちの攻撃を受けたかのようにびっくりした表情をしながら、考えを絞り出しながら答えた。 「えーっと。犯人を逮捕する場合、現行犯以外は、証拠を元にした逮捕状が必要になる。そのために、聞き込みや、現場検証等の捜査をしなければならない。というふうに、事件の解決には、時間がかかるから?」  記者の答えに、桂総理は、頷きながら手を叩いた。 「そうです。あなたの言う通り。ですが、事件解決になるまでに時間がかかる理由は、それだけではありません。」 「そ、それは、どういう事でしょうか?」 「はい。現在、日本では、犯罪の発生というのは、直接見た者以外では、被害届けを出されるか、偶然、事件現場や証拠品を発見した後からしか認識できないのです。  私は、これこそが、犯罪の発生件数に対して、警察の数が足りていない事の、最大の原因だと思っております。」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加