3rdライブ in N駅

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3rdライブ in N駅

 (スーパー)スーパーのおかげで完全回復した俺たちは、軽快に自転車を飛ばし、予定通り正午頃にN駅に到着した。この駅周辺には全国的にも有名な観光地が点在していることもあってか、人通りはかなり多い。加えて、所々に部活帰りと思われる高校生の集団もチラホラ目につく。これはかなり期待できるかもしれない…そんな好感触を胸に駅前の商店街に入ると、入り口付近に適当なスペースを見つけてちゃっちゃとストリートライブの準備を完了させる。  そして三国とのオリジナル曲を演奏し始めると、もう一曲目からJK集団が手拍子をしてくれて大盛り上がり。間奏の合間に俺たちは互いに目を合わせると、『これでこそライブだよな!』そういう思いで頷き合う。JKたちはそれからも何曲か聴いてくれて、その盛り上がりは商店街中に伝染していくような気さえするくらいだった。そうこうする内に、商店街のたこ焼き屋のおばさんが差し入れをくれる。六個入りのたこ焼きを五パックも。もうこれで昼飯はクリアだ。JKたちはいつの間にか姿を消してしまったが、差し入れのたこ焼きをありがたく頂きながら演奏を続けていると、更に凄いことが起きた。  三国が尾崎豊の「I LOVE YOU」を単独で歌っている時だった。俺たちの前に立ち止まり三国の演奏に熱い眼差しを向けているのは、ピカピカの革靴にスーツをビシっと決めた中年男性。彼は表情ひとつ変えずに腕を組み、足先を少しだけ動かしてリズムをとっていた。そして三国の歌が二番に差し掛かった頃、ギターケースに投げ銭を入れると、そのまま商店街の奥の方へ歩き去ってしまったのだ。三国が歌い終わってからみんなで金額を確かめる。それは投げ銭ならぬ、投げだった。なんと一万円札が投入されていたのだ。その瞬間、みんなの瞳が諭吉化してしまっていたのは言うまでもない。それでも「俺の演奏、最後まで聴いて欲しかったな…」と、冷静な突っ込みを入れる三国はさすがだなと思った。途中まで聴いて何も言わずに立ち去るということは、おそらくお目に叶わなかったのだろう。単に時間がなかっただけかもしれないが。それにしてもいったいどういう気持ちでこんな大金を与えてくれたのだろうか。どこか得体の知れない風格があったが、何をしている人なんだろう、金持ちには間違いないだろうが……疑問は尽きない。ただこれで金銭的なピークを向かえたことは間違いない。俺たちはこのみとな旅始まって以来の安心感を手にしていた。  その後、商店街の管理人らしき人物から注意を受けたため、演奏場所を移動することになった。商店街からそれほど離れていない観光地に移動し、更に演奏を続ける。でもそこは日陰がなかったため、直射日光にやられた二人は一気に喉の調子が悪くなり歌い辛くなってしまう。さすがに調子に乗って歌いすぎてしまった。観光地ということもあり人通りが多く、時々リクエストも入ったりしていたのに口惜しい。この時初めて歌いたくても声が満足に出せないことからくるジレンマを抱いた。でももうこれ以上は無理はできない。三国と俺は日陰で休める場所まで移動し一休みすることに。こんな時もシズがまた頼りになる。代わりに演奏者がいることの心強さを思う。あとから聞いた話では、昼間盛り上がってくれたJKたちも来てくれたみたいで、その場にいられなかったことが少し悔やまれるくらいだったが(ボディーサインをもらい損ねてしまった)、シズ、タクト、シゲの三人で街の人たちと楽しく交流できたみたいで何よりだ。    夕方になると俺たちは演奏をやめて、いよいよ待ちに待ったディナータイム。珍しく(というか初めて)食欲と持ち金が釣り合ったこの日、演奏疲れはもちろんあったが、この多幸感は忘れられない。昨夜とは随分と状況の違うこのギャップにしびれる。結局ファミレスで豪遊することになった。五人共迷わず頼んだのはステーキ定食。鉄板プレートの上でジュージューと音をさせながら登場したステーキを見て、よだれを隠せない五人。二千円前後の豪華定食にありつけて、みんな顔を見合わせる余裕もなく、無言の幸せディナータイム。謎のおじさんやJKたちを始めN駅周辺の街の人々に心から感謝しつつ、あっという間にたいらげてしまう。    そして満腹状態で今宵の宿を探す……わけはない。豪遊したおかげでまたほぼ無一文に後戻り、当然今夜も野宿だ。N駅近くのコンビニにある広い駐車場の端っこに、段ボールを敷布団にして横になる(またしてもコンビニで譲ってもらう)。  見上げると俺たちは満天の星空に包まれていた。すると、流れ星がいくつか見えた。ちょうど流星群の時期と重なっているのかもしれない。旅始まって以来の好循環に満ち足りた心地のままみんなと語り合う内に、いつの間にか眠りについてしまう。
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