終わらない歌

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終わらない歌

 ― 時刻は午後八時 ―  「よしっ!そろそろO駅に向かおうか」  三国がハードケースを手に立ち上がると、他の四人もそれに続いた。みんなカレーをチャージの上で一休みしたから完全に生き返っている。そのままお寺の正門をくぐって門外に出ようとすると、思いがけずミウと鉢合わせになった。  「みんなお帰りー!三国から着いたってメールがあったから来ちゃった」 「ただいまー!!でもまだ"みとな"は終わってないんだな〜これが。これからO駅で締めのライブをするから、ミウも一緒に行こうか」  みんなで歩いてO駅に向かう道すがら、旅の出来事をミウに報告する。ミウお手製のおにぎりが出だしから大きな活力になったこと、一駅目から結構投げ銭が入って街の人々と交流できたこと、それでもH駅は一銭も入らずみんなでウ○コ呼ばわりしたこと、水分補給や食に困った時はスーパーの無料給水所や差し入れにとても助けられたこと、N駅では大盛況で万札までもらったこと、JKファンができてO駅でのストリートライブに来てくれることになっていること……話し出したらキリがなくて、みんなミウに寄ってたかって弾丸トークが炸裂する。 「わかったわかった!もう楽しかったことは十分に伝わったよ。発案冥利に尽きるってもんね」  ”みとな計画”の発案者でもあるミウは、俺たちが話しすぎるから若干引き気味の模様。まだまだ話は尽きなかったが、O駅に到着したので続きはまた今度。俺たちはちゃっちゃと準備をして早速ストリートライブを始めた。    カレーチャージが効いているのか、三人の歌声はを取り戻している。いやむしろいつも以上だ。過酷なみとな旅を乗り越えて、また一回り成長した俺たちの歌声が駅前に力強くこだまする。旅を完遂したことで、人前で歌う"度胸"にも箔がついたようだった。    俺はふと思い立ってミウに向けてあの失恋ソングを歌おうと、何の前置きもなく演奏を始める。この勢いのままに素直な気持ちを歌に乗せてぶつけてしまおうと思ったのだ。他のみんなはそれを察してくれたのか会話を一切やめて、演奏に耳を傾けてくれている。そのおかげもあってかミウもちゃんと聴いてくれているみたいだった。歌いながら薄目を開けてミウの表情を確かめる。その表情が思いのほか切なげだったから、より一層歌に思いがこもる。  歌い終わって俺は言わずにはおれなかった。 「ミウのことを想ってできた曲なんだ……」 「うん…。想い……伝わったよ。こんな風に面と向かって歌われるとなんか心揺れちゃうな……」 「もう二人付き合っちゃえば?」  シズのさりげないアシストに、ミウは恥ずかしそうにうなづいた。 「じゃあ…付き合おっか。ウチ、男の人と付き合うのが初めてで、きっと臆病になってた。友達のままの方が気楽でいいやってさ……」  俺は飛び上がるほど嬉しくて、高なる気持ちを紛らわせようとひたすら歌い続けた。まさか失恋ソングで告白のリベンジを果たせるとは……、今度はちゃんとしたラブソングを作ろうと心に誓う。  そのままストリートライブを続けていると、若い男性二人組が話しかけてきた。  「よぅ!やっぱりやってた」  現れたのは赤髪とマジメだった。俺たちみんな突然の出来事に呆気にとられていると、 「おまえらならきっと旅の最後にここで演奏すると思ってた。最後だけでも参加させてくれよ。どうだった?みとな旅は」  旅への参加をこちらから断ったのに、そこまでして参加したいと思ってくれることが嬉しくて胸が熱くなる。シズを筆頭にシゲとタクトも一緒になって、みとな旅の出来事を赤髪とマジメに解説し始める。二人の参加を一番否定していたのがシズだった。きっとその責任を感じているのだろう。赤髪とマジメは目を輝かせて三人の旅談話に聞き入っている。  その間、三国と俺はそのシチュエーションに一番合いそうな"二人のオリジナル曲"を演奏していた。  すると、 「こんばんはー!金曜日だったから来てみたよ〜!!」  現れたのはA駅でファンになってくれたJK五人組だった。ちょうどO駅に別の用事もあったみたいで立ち寄ってくれたのだ。 「すげー、いきなり来てくれたー!」  ―― みんな大集合のO駅前 ーー    "終わらない夜"に"終わらない夏"を掛け合わせたような空間には、あらゆる可能性が潜んでいる。この日のストリートライブは夜が更けてもまだ続けられ、歌が鳴り止むことはなかった。 『このままずっと、永遠(とわ)にループしていたい』一点の曇りなくそう思える夏だった。 【完】
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