新参者

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新参者

 それ以来、俺たち五人は毎週金曜日、必ず駅前に集まった。毎週のように駅前で歌い叫ぶ日々は青春以外の何物でもなかった。ストリートライブは期待を裏切ることがない。毎回楽しすぎるから、深夜0時を回っても続けてしまう。親からは不良扱いされたが、反抗期ということもあってか、より一層積極的になってしまうような面もあったかもしれない。    そうこうする内に、持ち歌は更にファイル一冊分増えた。おまけに三国と一緒に創作したオリジナル曲が二曲追加される。これはかなり強力な起爆剤となるはず…、根拠のない自信に更に火がついて、ストリートライブは回を追うごとに本気度を増していく。この二曲はあっという間に俺たちの代表曲になった。そして俺と三国の他にもう一人、シズが歌い手として加わる。彼は密かにアコースティックギターを買って練習を積み重ねていたのだ。客引き要員としての立場だけでは物足りなくなった所もきっとあったのだろう、「次、俺に歌わせてよ」、そう言って時々その美声を轟かせた。元々カラオケでも歌が上手くて評判の男だったから、ライバルである以上に心強い味方だった。  そしてついに八月初旬を迎える。今夜はみとな計画実行の前日。景気付けにストリートライブをして、その後は三国の家にみんなで泊まってから出発することになっていた。  いつもよりも少し早めの午後五時台から演奏を始める。俺と三国、そしてシズの三人はいつものように快調に次々と演奏していく。そしてシゲとタクトの二人は、三角座りをして俺たち三人の両脇を固め、時々手拍子をしながら音楽に聴き入っている。タクトは茶髪のロン毛で、時々持参したビデオカメラでストリートライブの模様を撮っては、楽しそうな微笑みを見せる。シゲはマッチ棒のように痩せ型だったが、たまにツボをついた発言でみんなの顔を綻ばせる、どこか温かみのある性格の持ち主だった。でもあまりにも痩せコケていたから、「みとな中のストリートライブでどうしてもお金が入らない時は、シゲを一人三角座りさせておけば誰かが恵みのお金をくれるんじゃねーか」そんな冗談が出るほどだった。いやでも、みとな計画では実際にそんな奥の手も必要かもしれないと、俺は半分本気で思っていた…。    あっという間に深夜0時を回る頃になって終盤戦、最後に何を演奏しようかと、楽譜をペラペラめくっていると、同年代くらいの男二人組が、近づいてきて話しかけてきた。一人は赤髪で見るからに不良というタイプ(ガタイも良くていかにも喧嘩っ早そうだった)、もう一人は黒の短髪で、背の低いマジメそうなタイプに見えた。 「めっちゃ楽しそう!いつからやってんの?」 「夕方くらいからずっとやってるよ」 「へえ、しばらく前からそこで聴いてたけど、歌めちゃくちゃうまいねえ。もう一曲なんか歌ってよ」  "赤髪"とそんな会話を交わす。見た目ガラが悪かったので、喧嘩でも売られるのかと少しドキッとしたが、全くの杞憂だった。何か歌って欲しそうにしてる。こういう時、ファイルニ冊分のレパートリーはなかなか強力な味方になる。赤髪と一緒にファイルをペラペラめくっていると、彼の好きな曲もちゃんと見つかって、早速その曲を歌い始めた(たまたま俺がピンで演奏する曲だった)。誰かのリクエストを受けて演奏すると、歌にも一段と気合いが入るものだ。  それから暫くはその二人組は俺たちと一緒になって、演奏を聴いてくれていた。次第に友達のように仲良くなっていく。でもさすがに深夜一時を回り始めたので、今度こそお開きとすることに。なんと言っても明日はみとな計画の実行日なのだ。夜更かしをしすぎて睡眠不足になってはまずい。  みんなで三国の家へ向かい出すと、"赤髪"と"マジメ"の二人も自然とついてくる流れとなった。そしてみとな計画が話題に上がると、二人も参加したいと言い出したのだ。思わぬ急展開に、俺たち五人に幾許かの不協和音が流れ始めた。
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