カオスナイト

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カオスナイト

 二人はみとな計画を心から気に入ったようで、なんとしても参加したいと言い張った。とてもじゃないけど無下に断れるような状況ではなかったので、とりあえず三国の家で話し合おうということになる。彼の家は駅前から歩いて五分程の距離にあるお寺だった。お寺なので立派な本堂がある。本堂には二十畳程の広間があって、俺たちは普段からよくそこに集まっては、夜通しくだらないことを語らいながら夜を明かしたものだった。  三国の家に着くと、七人は自然と輪になって本堂の広間に座した。みんなどこか神妙な面持ちで、みとな計画実行直前にあるべき楽しい雰囲気はすっかり影を潜めてしまっている。二人が参加することに対して俺たち五人の総意がはっきりとせず、ひとつ返事でオッケーできるような状況ではなかったからだ。  『まさに明日みとな計画を実行するという運命的なタイミングで出会えた。初対面とは言え同郷で同年代、七人で行った方がより楽しいかもしれない』という意見もあれば、『さっき出会ったばかりの初対面。元々馴染みのあるメンバーで実行した方がより濃密に楽しむことができるはず』という意見もあった。俺たち五人のほとんどはどちらかといえば前者よりの意見だったが、シズだけは圧倒的に後者の意見だった。必然的にシズと赤髪が対立する構図となる。それでもシズの考えを聞けば聞くほど一定の理屈は通っており、彼を説得するのは困難に思えた。一方で赤髪も参加したい思いをなかなか譲らない。話し合いは必然、平行線をたどった。ただ幸いなことに、気の短い人物はその場には一人もいなかったので、誰も無用に事を荒立てるようなことはしない。赤髪は赤髪でその外見とは裏腹に、根が優しいタイプなのか辛抱強くシズの意見に耳を傾けつつ、慎重に言葉を選んで自分の意見を述べる。マジメは全面的に赤髪に思いを委ねているようで、ただ真剣な表情で静かに聞き耳を立てている。(シズ以外の)俺たち側は、シズの発言に同調したり、赤髪の意見に同調したりとどっちつかずな状況…なかなか埒があかない。     結論がなかなか出ないまま、更に夜は深まっていく。長い沈黙を挟みながらの話し合いは既に三時間近く経過しようとしていた。  俺は元々二人の参加を認めてあげたいと思っていたが、一方でそれ以上に幼馴染であるシズの意見を軽視できず……この精神的カオスになんだかやるせなくなって、気づいたら涙までちょちょぎれる始末だった。「何とか一緒に行ければいいけど、やっぱり俺ら五人の意見がまとまらないことには……」そうやって涙混じりに赤髪とマジメに伝えた。それがきっかけかはわからないが、二人があきらめの方向へ舵を切り始めたような雰囲気があった。  そして夜明け間近になってようやく、赤髪とマジメは結論を出したようだった。  「よ〜し、わかった。新参者が急に変なこと言って申し訳なかった!あと、出発直前までこんな親身に話し合ってくれて、ホントありがと!!"みとな"の旅が無事に成功するように祈ってっから。もう始発も来る頃だし、俺らはここらで退散します」  そう言うと重い腰を上げ、本堂の出口へと向かっていく。俺たち五人もみんな立って、口々に「ごめんな…」と言いながら、二人を見送ったのだった。俺はその別れ際、何か"二人と出会った証"のようなものを残したくて、自分のアコースティックギターのボディーに二人の名前を刻んでもらう。油性のホワイトペンで快くサインしてくれた二人……『また駅前で出会えますように』心の中でそう願った。  予定外の深夜協議により、俺たち五人はほぼ一睡もしないまま、みとな計画を実行することになりそうだった。  予定変更はせずに強行する。出発は朝の八時だ。
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