みとな開幕

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みとな開幕

 俺たち五人は赤髪とマジメを見送ると、少しでも仮眠を取るべく本堂の広間に雑魚寝をした。みんな横になって目を閉じてはいるが、カオスな夜の蟠りと、これから始まるみとな旅への興奮が入り混じって、眠るに眠れない状態だった。それでも早々にグースカといびきをかきはじめた強者が……それは茶髪ロン毛のビデオ撮影係、タクトだった。人それぞれでいい。本当に楽しい仲間たちだ。    あっという間に八時になると、みんな覚悟を決めてムクッと起き上がった。例え無睡でもなんとかなりそうな気はしていたが、なんだかんだ少しは仮眠できたかもしれない。  五人は本堂を出て、三国の家の玄関前に集合する。ギターや楽譜立てといった演奏道具やタクトのハンディーカム以外は、着の身着のままといった感じだ。ほとんど手荷物はない。財布すら持って行ってはならないのだ。  最低限の荷物の中で一番大きなもの言ったら、三国の持つギターのハードケースだった。ハードケースは肩がけができない(シズと俺のギターケースは肩がけのできるソフトケースだった)。ソフトケースの比ではないくらい重いのだ。自転車を漕ぐ時に肩がけできないとなると、それはかなりのハンデになる。自転車の片方のバンドルにハードケースの取っ手を引っかけてバランスよく漕ぐ必要があった。それでもストリートライブにはハードケースが欠かせない。投げ銭の投入される先は、パカっと開いたハードケースでないと格好がつかない。その負担を文句ひとつ言わず背負う三国は、やはり男気のある奴だと思う。  俺たち五人が眠い目をこすりながら見上げた空には、雲ひとつない夏空が青々と広がっている。そしてそれぞれの傍らにはこれからお世話になる自転車が寄り添っている。三国以外はただのママチャリだ。 「おっはよー」 みとな計画の発起人、ミウが差し入れを持って顔を出した。元々見送ってくれることになっていたのだ。でもまさかおにぎりの差し入れがあるとは思わなかった。しかも手作りだったから、ミウの愛情がこもっている気がして、それだけでもうとびっきりのサプライズだった。   「サンキュー!!実はさ、昨日ほとんど寝てないから結構やばいかも」 「え〜!大事なみとな旅の前日にいったい何してたの?!これから二泊三日もかけて一周するんだよ?マジで気をつけてよ……」 「おう!この握り飯があれば、元気百倍。大丈夫だって!」  ミウの心配や応援する気持ちが伝わってきて、なんだか嬉しくなる。見送る彼女を何度も振り返っては手を振りながら、俺たち五人は自転車を漕ぎ始めた。    ひとつ目のストリートライブポイントはM駅だ。ここから自転車でニ時間程の距離にある。ミウのくれたおにぎりは、途中どこかで休憩しながら食べることにしよう。 「なあ三国、見上げてみろよ。青い空がとてもきれいだな!」 「あぁ……そんなことさっきから気づいてるって」 俺たちは自転車で並びながらそんな会話を交わす。  いよいよ始まったみとな旅。これからどんなことが待ち受けているのか、初っ端からワクワクドキドキで頭の中がふやけてしまいそうだ。  
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