超スーパー

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超スーパー

 H駅前で寝ていると夜中にポツポツと雨が降ってきて、屋根付きベンチにみんなでワラワラと移動するという一幕もあった。さすがはウ〇コ駅と呼ばれるだけある。この駅ではとことんツイてない…。それでも朝になると雨は上がって、空は青さを取り戻していた。この天気に便乗して少しでも気持ちを切り替えなければ。  俺たちは朝八時頃、H駅におさらばし、次のN駅を目指すべく出発する。N駅はちょうど永遠湖の最北端にあって、この旅の中間地点に位置している。そこまではまた数時間自転車を漕がねばならない。到着は正午頃になるだろう。晩飯抜きでどこまで体力が持つことやら。お金も小銭が数十円ほどしかない(M駅で稼いだ余りだ)。そしてここに来てシゲは一層磨きのかかった死に顔を露呈している。話しかけるのも憚れるような表情だったが、一声かけとかないと危ない気がした。 「シゲ…その死に顔、大丈夫?」 「ん…、もう元々こういう顔ってことにしといて」  シゲの冗談に思わず笑みがこぼれる。見かけによらずまだ少しは余裕があるようだ。  それにしても青空の下、風に吹かれながら自転車を漕いでいると、なんとかなりそうな気がしてくるから不思議だ。少なくとも前に進んでいる。そして今回のハードケース担当はタクトだった。  その後N駅に到着するまでに俺たちは二か所寄り道をすることになる。一つ目は図書館だった。そこでしばし休憩したのだが、お決まりの水分補給をした後(例の無料給水設備は図書館にもある)、五人まとまってソファーベンチに座って涼む。図書館内はこれでもかという程冷房が効いていて快適極まりない。あまりの居心地良さに、そのまま眠ってしまう五人。みんな疲れすぎだ。  そのせいで小一時間程ロスしてしまったが、体力を回復させた俺たちは再び自転車で北上する。それでもうだるような暑さがすぐにまた付け焼き刃の体力を奪っていく。人は限界を超えると笑えるというが、俺たちはこの時まさにそんな状態だった。湖岸道路沿いに半笑い状態で自転車を漕ぐ五人が一列に連なる。  やがて先頭の三国が自転車を停止させると、みんなもそれに続いて自転車を止め、一時的に集合する。 「もうアカン。みんな限界来てるわ。あんまり時間ないけど、どっかのスーパーに寄らないとやばい」三国の言葉にみんな半笑いのまま頷く。反対する者は誰もいない。  それからしばらく進むとかなり大きめのスーパーにたどりついた。例のごとく真っ先に給水サービスを占領しみんなでカブ飲みしていると、店長と思しき人物が話しかけてくる。 「キミら、もしかして永遠湖一周中?」  聞く所によると、店長も若い頃は自転車で何度か永遠湖一周したことがあるらしく、俺たちに心から共感してくれる。そして無一文でスタートし、ストリートライブで稼ぎながら一周していること、昨夜から何も食べていないことを伝えると、 「何それー!キミらずば抜けとるなぁ。ちょっと待っててな…」  しばらくするとスーパーの籠を一杯にして店長が戻ってきた。そして俺たちの目の前に籠をドサッと置くなり、 「これ食って元気出しな!そこのテーブル使ってくれていいから。金はいい…本気で応援してっから、頑張ってな!!」そう言ったのだ。  スーパーの商品を幾つか選りすぐって無償で提供してくれるという言う。なんというスペシャル待遇。ポカリスエット一人一本ずつに加え、たこ焼きやおにぎり、スナック菓子まで色々と籠に詰まっている。 「い、いいんですか…」  そう遠慮がちに言いながらも、既に心は食べる気マンマンの状態だ。俺たちは優しい瞳で頷く店長を見届けると、目の前に用意された食料を、目を皿のようにして食らいつく。そして仲良く五等分しながらあっという間に食べ尽くしてしまう。  食後の余韻に浸ること数十分 ーー 最後に店長に「ありがとうございましたー!」と気合いの入った挨拶をして"(スーパー)スーパー"を後にしたのだった。    この時俺たちはウ◯コ駅とのギャップにいい意味でやられていた。今がまるで天国にいるような心地にもなる。この波の激しさこそが旅の醍醐味、これをきっかけにいよいよ好循環の波が始まったような気がしていた。  今度こそ本格的に回復した俺たちは、N駅でのストリートライブが俄然楽しみになってきて、軽くなった自転車のペダルを勢いよく漕ぎ始めた。
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