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side りな子
「ただいま、ただいまーー、りな子、いないの?」
「お帰りなさい。ご飯、しなきゃ、ごめんね」
「何回も呼んだんだけど、聞こえなかった?」
「えっ、あっ、ごめんなさい。集中してたから」
「仕事?」
「うん。今から、ご飯するね」
「いいよ、いいよ、何か頼む?それか、冷凍食品とかあったりするんじゃない」
「あっ、うん。ちょっと見てみるね」
泰作の声が入ってこなかったのは、ボッーとしていたからだ。
仕事なんて、一つも進まなかったけど。
本当の事を言えるはずもなかった。
仕事部屋から出て、キッチンに向かう。
「服、着替えてくる」
「うん」
何か食べれるものはないか、冷凍庫を探る。
あった。
仕事が忙しい時に、お昼に食べる用で置いている冷凍チャーハン。
そして、お土産でいただいた冷凍餃子。
「何かあった?」
「冷凍チャーハンと餃子でいいかな?」
「それなら、ラーメンもちょっと食べたいなーー。カップ麺あったっけ?」
「うん、あるよ。私のお昼用に」
「一つもらっていい?半分こしようか?」
「うん、お湯沸かすね」
「ありがとう」
「座ってて、すぐに作るから」
「わかった」
泰作に作る、ご飯以外は手抜きだ。
忙しかったら、カップ麺をすすって食べ、ロールパンをかじって仕事をする。
本当は、晩御飯の残りがあればいいんだけど。
カレーやシチューや煮物など以外は、きっちり二人分しか作らないから残ることがない。
たまに、味噌汁が残るけれど、朝ご飯に一緒に食べてしまうので昼間には残らないのだ。
だから、体調が悪い日やこうやって作り忘れてしまうと大変。
冷凍ご飯のストックを作っておけばよかったとかカレーやシチューの残りを冷凍しておけば何て考えてしまう。
泰作に冷凍食品を食べしてしまうなんて情けない。
でも、今日は作る気分にはなれないから仕方ない。
さっき、彼から友姫が相手だと聞かされた事で何もやる気がおきなかった。
フライパンに冷凍餃子を並べて焼いたり、冷凍チャーハンをレンジで温める。
普段料理を作るよりも、単純な作業でありながらしんどいと思ってしまう。
こんな状態で、私達はやり直せるのだろうか?
やり直すも何も泰作は、私が知っている事など知りもしないのに……。
カップ麺にお湯を注いで料理が完成した。
できた料理を持って、泰作の元に向かう。
「ありがとう、取るよ」
「うん」
トレーから泰作が料理を取るのを見つめているだけで、気分が悪くなるのを感じる。
その手で、友姫を抱いているんでしょう!問い詰めたくなる唇を噛み締める。
「取り皿は?りな子も食べるだろ?」
「あっ、忘れてた。取りに行ってくるね」
「うん」
本当は、食べたくなかった。
でも、一緒に食べないって選択をしたら泰作はもっと友姫の元に行ってしまう。
そんな事になったら、私は生きていけない。
小皿を取りながら、泰作を見つめる。
色んな事を乗り越えて、私達の絆は深く濃くなった。
その絆は、どんな人にも切れない。
例え、泰作が友姫を好きでも……。
私と紡いできたものはなくならない。
そう思うだけで、少しだけ気持ち悪さが減ったのを感じる。
小皿を持って泰作の元に戻った。
「俺が取るよ」
「ありがとう」
泰作は、餃子やチャーハンを取り皿に入れてくれる。
昔から、こういう優しいところが好き。
でも、泰作が私以外にも優しいのは知っている。
若い頃は、それでよく喧嘩をした。
待ち合わせ場所で、女の人に道を聞かれていて「ナンパして」と怒ったのを今でも覚えている。
あの時の泰作の焦った顔は、今でもハッキリと思い出す事が出来る。
「やっと笑った」
「えっ?笑ってた……私」
「笑ってたよ、嬉しそうにニコニコ。仕事のアイディア思い付いたの?」
「うん……ちょっとね」
「それならよかった。仕事のアイディアが出てこない時のりな子は、ここに皺が寄ってるからね」
泰作は、眉間を指差しながら笑う。
そっか、私、今、笑ったんだ。
まだ、泰作との事を思い出して、笑えるんだ。
それなら、大丈夫。
まだ、汚れてるわけじゃない。
思い出が、全部。
それなら、まだ、やり直せるよね。
「お腹すいた。早く食べよう」
「そうだな。はい」
「ありがとう」
きっと、大丈夫。
例え、どんな事があっても……。
私と泰作なら、乗り越えられる。
そうでしょ?
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