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Side りな子
「女としてもう終わりなんだなーーってつくづく感じちゃったのよ。でも、夫以外には抱かれたくないじゃない」
私は、友姫の悩み相談にかれこれ1時間は付き合っている。
別に対して仲が良かったわけではない。
友姫は、ただの同級生の1人。
そんな友姫から、突然SNSを通じて何故か連絡がやってきた。
理由は、わかっているのだけれど……。
何故かとつけた方が、何となくミステリアスでいいと思ってつけてみた。
「だけど、やっぱり女として見られたいじゃない。わかるでしょ?りな子」
「それは、旦那さんに?」
「もちろん、そうに決まってるじゃない」
アイスコーヒーのストローを女子高生のようにくるくると何度も回し、時より上目遣いで私を見ながら笑う。
中学生の頃に、同級生達が【嘘つき姫】や【尻軽姫】などと陰で言っていた通りだと思う。
友姫は、まだ女としての自分を諦めていないのがわかる。
「昨日来た宅配のお兄さんもね。近所の30代の奥さんの家を気にしてて。あーー、男ってやっぱり若くて細い子が好きなんだなーーって思ったのよ」
「どうかな?」
「そうに決まってるじゃない。だけど、宅配のお兄さんとどうにかなりたいわけじゃないのよ。私は、ただ夫に愛されたいの」
友姫は、少しぽっちゃりした体型にはなったけれど、まだ女の色気をプンプンと放っている。
私とは、正反対だ。
結婚して20年。
私は、まだ夫に抱かれたいのだろうか?
子供がいない私と子供が一人いる友姫とは考え方が違うのだろうか?
今さら、夫の泰作に誘惑されたらと考えると寒気がする。
「りな子は、どうなの?」
「どうなのって何?」
「子供がいないなら、旦那さんとそうなんでしょ?」
「まさか……。もう、何年もないわよ」
「じゃあ、りな子も私の気持ちわかるんだ」
「そ、そうだね」
嘘をついたのは、さっさと帰りたかったからだ。
「じゃあ、また連絡するね」
「うん。じゃあ」
橋崎友姫とは、小学校からの同級生だ。
仲が良かったのは、小学校の低学年までで。
高学年からは、友姫はいけてるグループに所属した。
それからは、ほとんど話す事はなくて……。
私は、中学に入ってから暗い人扱いされて友人もいなかった。
いじめられてると言うよりは、存在を認められていないに近かった気がする。
そんな私に、47歳にもなって友姫がSNSを通じて連絡をとってきたのは……。
「先生」
「その呼び方やめてよ」
「いいじゃないですか!」
家についた私に声をかけてきたのは、深森空。
空と書いてあおと読ませるとは、彼の両親の想像力。
いや、DQN性を疑ってしまう。
けれど、彼から話に聞く両親はいたって普通の人間。
「これ、お願いできますか?新しい飲み物のパッケージらしいです」
「あっ、うん」
私を先生などと呼ぶのは彼だけだ。
私は、別に先生と呼ばれる職業に属しているわけではない。
「じゃあ、休憩時間に、今日もまた教えてくださいね」
「うん。わかったわ」
「じゃあ、紅茶いれてきますね」
「お願い」
田舎の一軒家。
彼が出入りするのを見た近所の人が泰作に「奥さん、不倫してるわよ」と言った言葉を急に思い出して笑えてくる。
彼みたいな若い人が、私みたいな太ったおばさんを相手になどするわけがないのに近所の人の勘違いはすごい。
さっき渡された飲み物のイメージを見ながら、2年前仕事部屋に改造した和室に入る。
改造といっても襖を、ガラス戸に交換しただけだ。
だけど、ここからキッチンやリビングが見えて気に入っている。
パソコン前に座って、わざとらしくテーブルをトントン叩く。
「先生、紅茶いれときました。置いていいですか?」
「あっ、うん」
「じゃあ、サイドテーブルに置いときますね」
「ありがとう」
「あっ、そうだ。午前中は、友人と用事があるって言ってましたけど、話しは何だったんですか?」
「別にたいした内容じゃなかったよ」
「聞かせてくださいよ」
「女として見られなくなったとかそんな話よ。夫だけじゃなく、若い人にもって話」
「へぇーー。その人にも俺みたいな人が見つかればいいのにね」
「えっ?どういう意味?」
「どういうって。俺、先生の事、女として見てますよ」
えっ?
はぁーー?
えっ?
そんな事、初めて聞いた。
こんなに、一緒にいるのに。
「じゃあ、クッキー焼いてきます」
「あっ、ありがとう」
20年ぶりに心臓がドキドキする。
って、何言ってるのよ。
相手は20歳も年下の子供じゃない。
友姫の子供も、今年で25歳とか言ってたし……。
それでも、こんな私を女として見てくれるって言ってもらえたのはちょっと嬉しいかも。
今になって、友姫の気持ちがわかった気がする。
球体のような体に下膨れた顎。
もう、女としての価値なんかないって思ってたのに……。
「ちょっとダイエットしてみようかな?」
真っ黒なパソコン画面にうつる自分の顔を見て呟いた。
いやいや、色気より仕事。
私が、この仕事について彼に出会ったのは7年前の夏だった。
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