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俺は、陽菜の店に行って空から依頼が合った事を話した。
陽菜は、すぐに何かを気づいたようだった。
「いいの?何か、けしかけちゃったみたいで」
「いいの、いいの、あーー、でもしなきゃ、陽菜は気持ち伝えないから」
「先輩として見てれなかったんだ」
「そうだなーー。ずっと、二人を見てたから。俺的には、うまくいって欲しかったんだよ、ずっと」
「へぇーー」
空には、普通の恋愛がして欲しい。
弟みたいに思ってるから、よけいにそう思った。
お節介なのはわかってたし、空が先生を好きなのもわかる。
だけど、それが恋かどうかって本人だって気づいてないわけだから。
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空の依頼を叶えるのは簡単で、俺達は第二段階である橋崎の友人やご近所に接触していた。
「あほらしい」
箕輪菜々子の近所の人間の言葉には、反吐が出そうだった。
騙されたなんて大人が簡単に使う単語ではない。
昔、母親が騙された時にお祖父ちゃんが言った言葉だった。
大人は、知識をつけるんだって言ってた。
そいつが、悪い人間なのか良い人間なのか、嘘をついているのかついていないのか、瞬時に判断する能力を持っていなければならないと……。
子を持つ親なら尚更だと怒鳴りつけていた。
母親は、騙された私が悪いのと泣いていたが、この世界ではそうなんだと思ったよ。
騙される奴がいるから、騙す奴が出てくるんだ。
みんなが利口で、瞬時に見抜く能力が備わっていたら、悪は蔓延る事は出来ない。
橋崎を騙す役目を空がやると言った時は、正直驚いた。
そこまでして、守りたいなら、それはもう……。
「愛なのかもね」
空が帰った後で、きいちゃんが呟いた。
「俺、誤解してたわ」
「誤解?」
「ああ、空の家、母親、後妻だったから。それで、母親へ思うような愛情と好きをごちゃ混ぜにしてるんじゃないかって勝手に思ってたよ」
「どうやら、違うみたいだね」
「ああ、あれはちゃんと山野りな子を愛してる。もちろん、最初の好きは違ったのかも知れないけど。今は、確実に愛してる」
「応援するの?」
「まさか、空には、不倫なんてして欲しくない。まあ、山野さんが空と向き合って旦那と別れるっていうなら応援するけどな」
「じゃあ、やっぱり、あの女の子を応援するんだね」
「当たり前だろ。俺は、陽菜にも幸せになって欲しいんだよ。それが、空なら最高だろ」
「自分の幸せは考えないの?」
「いい、俺は今で充分幸せだから。俺より、きいちゃんは?」
「俺も、今はいいよ」
「そうか。で、橋崎からは?」
「まだ、連絡はない」
「食いつかないのかな」
「食いつくよ、あの女は絶対に」
きいちゃんの言葉は、いつも正しい。
何百人もの女性を相手にしてきただけある。
きいちゃんは、騙す側の人間ではあるけれど、騙す代わりに甘いお菓子をあげるのだと言っていた。
そう言えば、昔、結婚詐欺に合った女の人がきいちゃんにあって元気になって結婚したのを思い出した。
騙す側に本の少しでも愛があると、騙された側の心は癒されていくのを知ったのだ。
だから、地獄に突き落とす時は簡単。
騙す側に愛がなければ、相手は勝手に落ちていく。
「きたよ、メッセージ」
「ほんとか!」
地獄に突き落とす為の時間と金は、惜しまないのが一番だ。
「さてと、時間と金をしっかり使うしかないな」
「そうだね、この手の女にはそれが一番だ」
「まずは、次のデートだな」
「最初は、安い金額でだんだんあげていく」
「三ヶ月で落とせるか?」
「そこまで、かからない気がするよ。彼なら……」
きいちゃんは、無邪気に笑いながらメッセージに返信している。
メッセージには気持ちが乗る。
だから、楽しい気持ちで打たないと相手が誘いにのってこないときいちゃんはいつも言う。
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