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「いいね、その怯えた目。ゾクゾクするよ。男が好きじゃなくても唆られそうだ」
「い、嫌だ……。お願いします、どうか——」
「何をされるか分かったんだね」
「や、やめろ……、こっから出し——」
「朔羅!」
恫喝する声と同時に、鉢須賀の杖が威嚇するよう床に叩き付けられた。
「は、鉢須賀さ……ま」
怯えた眸と無慈悲な目が絡まると、思わず恐怖から目を背けてしまった。
視線を向けた先にあるベッドを見つけてしまうと、これから始まる『行為』のための舞台なのだと嫌でもわかってしまう。
「お前は彼の要望に応えるだけでいい。今夜を機に、これはお前の仕事になる。施設を守りたいのなら言うこと聞きなさい。お前が寺で暮らすようになってから、棚倉氏を待たせていたんだ、果実が熟すのを待つようにな」
「施設……どう言う——」
反芻しかけた声を再び杖の音で掻き消され、無言で立ち上がった鉢須賀から睥睨を向けられた朔羅は言いかけた言葉を飲み込んだ。
無言で部屋を出て行く鉢須賀に手を差し伸べても、振り返りもせず部屋を出て行ってしまった。
「さ、おいで朔羅。初めてだろう、僕がきっちりと快楽を教え込んであげるよ」
厭らしく広角を上げた棚倉に体をねじ伏せられ、朔羅はベッドへと沈められてしまった。
「い、嫌です。やめて! 鉢須賀様、待って。出して、こっから出してください! こんなのやめさせてくださ——っんん。ぐう」
必死で抵抗しても襖は閉じられ、両手首は頭の上でシーツに縫い止められると、助けを乞う唇は棚倉の口で塞がれてしまった。
逃れようと顔を背け、足をバタつかせたものの、法衣の隙間から現れた白くてしなやかな下肢は撒き餌のように棚倉を誘い、意に反して相手を狂わせていく。
「ああっ!」
太腿の奥に触れられ、拒絶と裏腹に体がピクリと反応し、朔羅の背中は弓のように撓った。
「いい反応するね、朔羅。鉢須賀さんが出し惜しみするのも無理ないか」
棚倉の攻撃は緩まず、逃げようとしても、行手をシルクの海が阻み、もがいてももがいても滑って溺れるだけで這い出ることが出来ない。
「お願い……です。やめて……ください」
涙が瞼の中で膨れ上がっても、法衣を剥ぎ取ろうとする手は止まらず、艶めく白い肌が露わになっていく。
その姿が狩猟者を興奮させているとも分からず、朔羅は必死で抗って見せた。
「カナリア園……君はそこがどうなってもいいのか」
その言葉に朔羅の抵抗はピタリと止まる。
「鉢須賀氏から聞いてるよ。君の態度次第で、園の子ども達が不幸になるって。彼もさっき言っていただろう。子ども達はどうなるんだろうね、施設を追い出されたら」
「園の……」
耳元で囁かれた声は、朔羅の全てを封じてしまう言葉だった。
耳にこびりついている鉢須賀が言っていた、『施設を守りたいなら』の言葉。彼に従わなければ、放たれた言葉は実行されてしまう。いくら郭純や園長が拒んだとしても、古からこの街一帯を君臨する王者は、自身のプライドを曲げることはしないのだ。
自分が逆らえば、園の子ども達がどうにかなってしまう。そう悟った朔羅はシーツを握り締めた手の甲を白くさせ、血が滲むほど唇を噛み締めた。
「そうそう、大人しくしてて。いい子だね朔羅」
優しく撫でてくる手が背を這うと、ねっとりした感触に虫唾が走る。のしかかる重みに奥歯をぎりりと噛み締めていると、舌で首筋から背中、腰、臀部をくまなく舐められ全身が粟立った。
仰向けにされると、まだ誰にも触れられたことのない、桃色の小さな突起を前歯で甘噛みされた。
初めて知る感覚が全身を襲い、勝手に口から甘い声が漏れてしまう。
棚倉の舌と指が無数な触手のように思え、朔羅の素肌の上を執拗に弄っている。
逃げたい意識を快楽が上回り、意思に反して朔羅のオスが頭をもたげた。
はしたなく濡れそぼる先端を口に含まれ、たまらなくなった朔羅は、棚倉を喜ばせる興奮を口にした。
「あぁん、あ、いゃ、やめ……て、はぁん」
自分の知らない感覚を呼び覚まされ、朔羅は必死で抗おうとできる限り抵抗をしてみせた。だがそれは相手の思う壺だ。
突如、後孔に冷たいものが挿入してくると、痛みが走った。
「いた……い、やめて……くださ──。あぁ、そ……こ、やめて触らない……でくださ──あぅん。あふ、ああっ」
痛みの奥にある快感をこじ開けられ、朔羅のオスが白濁を放った。
棚倉がすかさずそれを掬うと、朔羅の小さな窄まりに塗りたくり、入り口を塞ぐよう屹立した棚倉のオスをあてがってきた。
全身を前のめりにさせる棚倉が、自身の肌を押し付けるよう朔羅の股間にぶつけてきた。何度も何度も繰り返されるうち、腹の最奥に触れられグリグリと擦られると、痛みをこえて萎えていたオスが再び顔を上げてこようとしてくる。
「朔羅、可愛いね……。それに君の腹良すぎる……よ。もう……果てそうだ」
喜悦の声と同時に棚倉の動きが早くなる。
悶える声を繰り返す棚倉を、腕で顔を隠しながら僅かにできた隙間を使って朔羅は睨みつけた。
初めて体を重ねた相手が、会ったばかりの、愛も情も何もないことに涙が溢れた。
棚倉から責苦を与えられ続け、熟れた果実は何度も貪られていった。
薄暗い部屋で重い瞼を刺激したのは、カーテンの隙間から差し込む一筋の陽射しだった。
人の気配に視線を向けると、「おはよう朔羅」と、ネクタイを締める棚倉が、甘ったるい声で話しかけてくる。
目すら合わせるのも悍ましく、朔羅は無言で顔を横に背けた。
「冷たいな、一夜を共にしたのに。ああ、約束通り寺と施設には寄付しとくからね」
涼しげな顔で語る棚倉を無視し、朔羅は法衣をかき集めると、手早く身に纏ってよろめきながらも立ち上がった。
「帰るのかい。でもこれで終わりじゃないから、また会おうね朔羅」
「えっ!」
喫驚した声を発し、朔羅は棚倉を凝視した。
「おいおい。まさか一度きりなんて思ってないよね? 僕は君のことを気にいったし。そうだ、いっそのこと鉢須賀さんから君を買い取ろうか」
冷嘲する棚倉に怯んでいると、嫌と言うほど味わった不快な指先がまた伸びて来る。
「やめて下さいっ」
脆弱した体で反抗を示しても、相手が動じていないことはわかる。それでも僅かなプライドが、気丈に朔羅を奮い立たせていた。
「現役の修行僧が男娼ってのはいい宣伝になるんだ。今後のきみの使い道をよく考えないとね」
払ったはずの手がいつの間にか肩に置かれ、棚倉が意味深な言葉を吐いてくる。だがその言葉の意味が朔羅には理解出来ず、眉間のシワを一層深めるだけだった。
「……もう帰らせて下さい」
残った力全部でスーツの腕を振り払い、朔羅はドアへと向かおうとした——が、すぐに華奢な手首は掴まれてしまう。
「そう言えば、君が守ろうとするカナリア園って少し特殊だよね」
口角を歪める棚倉に、掴まれた腕ごと体を引き寄せられた。
「特殊って——」
胸の中に閉じ込められたまま、上目遣いで聞き返した。
「あのさ、普通の孤児院って親がいない子どもが行くところだろ? でも君の愛する施設は、親がいる子どもだけを引き取ってるって聞いたからさ」
腕だけでは足りないのか、もう一方の手で朔羅の腰を掴むと、棚倉が口付けでもするかのよう顔を近づけてくる。
厭らしく笑う顔と、鼻をつく人工的な甘い香り。朔羅は彼の全てに嫌気がさし、腕が抜けるほど強く振ると拘束は簡単に解けた。
「あ……なたがどんな風に聞いてるか分かりませんけど、子ども達は一生懸命幸せになるために生きてるんです。興味本位な詮索はしないでください」
「はいはい、わかってるよ。元々僕は子どもが嫌いだからね、不潔で臭いし」
棚倉の不愉快極まりない言葉が、朔羅の表情を歪ませた。
全身で嫌がっても気にする素振りはなく、まだ体を密着させようとしてくる。
「……離してください。もう用はないはずです」
自分の中で一番低い音の声を出した。それは朔羅の精一杯の抵抗だった。
「フフ、名残惜しいんだよ」
「……失礼します」
棚倉の胸を思いっきり突っ撥ね、目を背けたまま朔羅は部屋を飛び出した。
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