二刀流令嬢は何故か心がざわつく

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二刀流令嬢は何故か心がざわつく

 それからヴァレンティーナとラファエルは、剣術の話で盛り上がった。  素性を明らかにしないように話すのは少し大変だったが、それでも彼との話はとても楽しい。 「……ヴァレン、お前は……」  少しジーッとラファエルに見つめられる。   「な、なんだ?」  琥珀色の凛々しい瞳。  心臓がドキリと変な音を立てた。 「いや、うん……なんでもない」 「じゃあ、そろそろ休むよ」 「あぁ、ゆっくり休んでくれ」  ヴァレンティーナはアリスと、茶会という名の真夜中の飲み会をあとにした。  メイドのドナがまた二人の前を歩く。 「この国が戦争を免れたのは、ラファエル様のおかげなのです」 「彼が反対したことで?」 「えぇ。侵略隊の整備することを拒否したために、侵略計画が遅れに遅れました。しかしその間に平和的な解決が進んだ。もしもあの時に先代が侵略隊を指導整備していたら、この辺境地は戦地になり、村はなくなっていたでしょう……」  この村の人達の人生は、相当に変わっていただろう。 「だから村のみんなはラファエル様に感謝しているんです」 「そうだったのか……彼は素晴らしい人ですね」  確かにヴァレンティーナが子供の頃、侵略戦争が始まる瀬戸際の時代があったというのは聞いている。  まさか、此処でその中心にいた人物と会うことになるとは……。  戦争が始まっていれば、村だけではなく国全体の運命が変わっていた。  誰も知らない勇者は、こんな辺境の地にいたのだ。 「はい。お優しく強くて、みんなラファエル様が大好きです。 こちら客間になります。どうぞゆっくりとおやすみなさってください」  二人に用意された部屋は、キングサイズベッドがある夫婦用だった。 「あのドナさん……」 「はい、何か足りないものがありましたでしょうか?」  『アリスとは恋人ではない』と説明しようとして、言葉を飲み込む。  別に、そう思わせておけばいいだけなのに……何故、そんな説明をしようとしてしまったのか。 「いや、部屋をどうもありがとうございます」 「いいえ。ヴァレン様、アリス様どうぞごゆっくり」  ドナはヴァレンティーナの微笑みに、見とれて頬を染めて部屋を出て行った。 「明日が楽しみですねぇ~ヴァレンティーナ様」 「……そうだな」  本当はまだ眠くない。  でも、あのままラファエルの前にいたら、更に興奮のままに色々な話題をぶつけてしまいそうで……ヴァレンティーナは部屋をあとにしたのだ。   「男装もいいものだな」 「ここでは安全そうですから、女性って言っても良さそうですけど~?」 「駄目だよ。明日の手合わせをしないと言われたり、手加減されては困る!」 「ヴァレンティーナ様、嬉しそうですねぇ」  ネグリジェを着せられ、髪をとかされ……アリスと一緒にベッドに入る。 「そういえば、ローズ様って誰なんでしょうね」 「……奥方ではないのか……」 「え~~ラファエル様って、結婚してるんでしょうか?」 「……さぁ、でも奥方がいてもおかしくはない……」  何故か胸がチクリとする。  嵐に野盗に……災難ばかりのなかでの、出逢い。  彼に見つめられた時に、あの琥珀の瞳に見つめられた時に感じた胸の鼓動はなんだったのか……。 「まぁ、あんなにカッコいいんですもんね~おやすみなさいヴァレンティーナ様」 「おやすみアリス」    感情が追いついていないんだ……とヴァレンティーナは眠りについた。    
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