二刀流令嬢・ラファエルの村を見学する・2

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二刀流令嬢・ラファエルの村を見学する・2

「まず、畑と川の増水具合を見に行く」 「あ、あぁ」  朝に、稽古した時にも体格差は感じた。  お互いに精一杯の力を出しての稽古だと心から楽しかったが……今は彼の腕に抱かれていると……やはり手加減されていたのかと思う。 「オレンジが……ここの……」  広大なオレンジ畑。  ラファエルの後ろから聞こえる声。  雨の中だし、カッパ越しだ。  それなのに、耳に優しく響く声。  心地よい、響き。  ずっと聞いていたくなる。 「ヴァレン?」 「あ、あぁ!」 「だからオレンジの精油を、是非……なぁ、なんかそんな縮こまってたら体勢辛くないか?」 「えっ」 「俺に、もたれても大丈夫だぞ」  優しく左手で抱き寄せられる。  いや、それはただ……もたれていいとの合図で……そう思っているのに、また胸の動悸が。  冷たい雨が、熱くなる頬に落ちた。  ラファエルの村は畑もとても綺麗に整備されていて、用水路も手の込んだ作りで平等に水が分配されるようになっていた。  早めに水の調整機を作動させたので氾濫する事はなさそうだ。 「此処は、ラファエルが統治しているのか?」 「あぁ。爵位を剥奪された時に、代わって統治することになった辺境伯が此処はお前で管理していいと言ってくれたのさ。まぁ当時の村人の反発もあってね。代わりに税金は収めているが、余裕はあるよ」 「素晴らしいな」  雨の中でも、村の家々もしっかりとした作りで花壇がある家もある。  人々の幸せが伺えた。 「学校にも行ってみるか」 「学校?」   「あぁ。できたばかりの学校なんだ。ヴァレンにも見せたい」 「こんなに雨が降っているのに?」 「雨が降っていても、学校はやるさ」 「そ、そうか。ルークはいる?」 「ルークは今日は、手伝いだ。みんな行ける時に行く」 「なるほど」  ヴァレンティーナは当然、家で何人もの家庭教師によって教育された。  学校とは無縁だった。  父は特に女に教養など無駄だと考えていたので、ヴァレンティーナが更に詳しく学びたいという願いも一蹴した。 「剣も大切だけど、これからはきっと勉強も大切だろ? 子供も立派な働き手だけど、将来の事は大人が考えて導いてやらないと」 「あぁ。そう思う」  無邪気に笑う男の、深い考えにヴァレンティーナは感動を覚えた。  今まで話してきた男達は、自分の狩猟がどうの、自分の買ったワインがどうの、高い閲覧席で見た劇がどうの、自分が手に入れた値打ちの高い宝石が……そんな話ばかりで……もっともっと話が聞きたいと思ったのは初めてだった。  少しだけ覗こうとした学校は、小さな家のようでラファエルを見つけた子供達がはしゃいで大騒ぎになった。  先生に謝りながら、ラファエルは子供達の相手をにこやかにする。   「わぁかっこいい人がいる!」「王子様?」「どこから来たの?」「剣を持ってる!」「ラファエル様より強いの!?」「お兄ちゃん、これ見て!」    逆に小さな子供とはあまり接した事のないヴァレンティーナは、少しタジタジだ。  だが、黒板に書かれた算数に戸惑っている子を見つけたヴァレンティーナ。  わかりやすいように、優しく教えるとその子の目が輝き出す。 「わかったーー! すごい先生!」 「諦めない君の努力の結果だよ」    「ヴァレン先生ありがとう!」  子供達が飛び跳ねて『ヴァレン先生!!』と連呼する。   「とんでもない、私は……」 「教えるのがとてもお上手なんですね。ラファエル様、もしかして一緒に教える新しい先生にと連れてきてくださったんですか?」  若い女の先生は、元気いっぱいの子供達に少々疲れ気味のようだ。  一人では確かに大変だろう。 「あ、いやヴァレンは……旅の途中のようで」 「そうなんです。私は全くの、はい……数日経てば出て行く身です」  先生も子供達も残念そうな顔をしたが、ラファエルも寂しそうな顔をした。  それを見て、ヴァレンティーナの心もチクリと痛む。  授業を途中で騒がせた事をラファエルは謝り、雨が酷くなれば屋敷に来るようにと皆に伝えた。  最後に、先生が気を利かせてラファエルへのハッピバースデーソングを子供達が歌ってそれはそれは可愛らしかった。
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