二刀流令嬢・ラファエルの村を見学する・4

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二刀流令嬢・ラファエルの村を見学する・4

 呆然としてしまっていたヴァレンティーナは、額を押さえてレイピアをまた腰に差す。 「……すまなかった……揉め事を起こして……私は、取り返しのつかないことを……」 「いいんだ。俺が情けないところを見せたな……」  二人ともが、傷ついたような顔をして見つめ合う。 「……迷惑をかけないうちに出て行くよ……」 「何を言う。あれはこの一帯の辺境伯のドラ息子の部下だ。部下と言っても、ただのお友達風情のチンピラ気取りだ……ヴァレンが言い返してくれて、俺も目が覚めたよ。なぁなぁにと……思っていたんだが」 「それは村のみんなのためだろう」 「そう」 「それを……私が……剣を自分の感情のままに……すまない」 「嬉しかったよ」 「……え?」 「俺のために怒ってくれて、嬉しかった」  雨が上がって、夕陽が登ってきた。  向かい合う二人に、雲が割れて夕陽が差してくる。   「俺もしっかり立ち向かうよ。ありがとう、ヴァレン」 「すぐにでも私は出て行ったほうがいいだろう……帰って支度を」 「家に帰ろう。今日こそパーティーだ」 「いや、でも……」 「さぁ。帰ろう」  また、温かな大きな手。  夕陽の中、また二人は馬に乗って歩き出す。 「此処の辺境伯は少し病でふせってて……ドラ息子が自分がもうすぐ跡継ぎだって、んでこの土地がもったいね~! 俺の代で取り戻す! って息巻いてんだ」 「……そんな」 「土地だけ取り戻しても、そこに住む人達は反発し、住む者がいなくなれば……此処はただの荒野になるだろう」  ヴァレンティーナが家を出る時に、使用人が全員家を出た事を思い出した。 「辺境伯には世話になってるし、あまり事を荒立てたくなかったんだが……」 「あんな誹謗をよく言えたものだ」 「……あのさ、聞いてくれるか……?」  帰り道も、同じくラファエルのぬくもりを感じる。   「どうした……?」 「あいつらが言ってた事……意味合い的にはほんとで……女性がって」 「……女性が苦手だと……?」 「あぁ。でも女性が苦手ってわけじゃないんだ……。俺の一言でさ……父さんが拒否することを決めたって……みんな武勇伝みたいに言ってる」 「ああ」  幼いラファエルの勇姿を思い浮かべる。 「でも俺は……俺がそんな事を言わなければよかったんだろうか? って思う日々でもあった。やっぱり相当な苦労があったから。父さんが早く死んだのも……没落して慣れない作業をしたからだろうかって……よく思うんだ」 「ラファエル……」 「一番ショックだったのは、没落直後に母さんが出て行った事だ。泣く妹まで置いて……」 「え……」 「仲が良い夫婦だったんだ。でも剣はそんなに好きじゃなさそうだった。でも父さんも俺達のことも愛してると言っていた……なのに、母さんは出て行ったんだ……。だから俺は……女の人というか……愛とか……よく……わからないと思って……」  馬はゆっくりと歩く――。  逞しいラファエルの胸元と腕の中で聞いているのに、絞り出す声は当時の少年のままのような。  寂しい寂しい……声に聞こえる。  その声を聴いて、ヴァレンティーナの傷ついた少女の心も一緒に涙を流す。  父と、母の、愛を見て、愛に絶望した。  その心の傷が、ヴァレンティーナにはよくわかった。 「わかるよ。ラファエル」  ヴァレンティーナは手綱を持つラファエルの手に、自分の手を添える。  この男は、自分と同じように心に傷を負っていた……。  愛が信じられないと思っている。    それはヴァレンティーナもそうだった。  でも今……。  ラファエルが、ヴァレンティーナの手を握る。  温かい手。  矛盾する事が心で起き始めている事を、ヴァレンティーナは気付く。  ラファエルに惹かれ始めている事を……。  信じられなかった愛が……自分の中で疼き始めている。 「君の心の傷が痛いほどわかる……君の心の傷が癒えるように心から願っている」  でも自分は男として彼と出逢った。  それで良かったのだ。  終わるしかない、想い。   「ヴァレン……でもな。俺は変わろうと思い始めてきたんだ……」 「変わる……?」 「あぁ、俺は……」  ヴァレンティーナと同じように、ラファエルの心にも変化が……?  ラファエルが言いかけた、その時。 「兄様ーーーー!! ラファエル兄様~~~~!!」  ものすごい勢いで馬に乗ってこちらに来る女性が見えた。  
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