気付く恋・1

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気付く恋・1

「ラファエル兄様ーーーー!!」 「ローズ!! もう少し速度を落とせ!」 「ええーーー!? 大丈夫よ、このくらーーーーい!!」  馬の手綱を目の前で引いて、豪快な止まりっぷりだった。  ローズというのは、ラファエルの妹?  ラファエルが馬から降りて、ヴァレンティーナも降りる。 「わお!? ごきげんよう!! あらぁ!? どちらさま!?」  ヴァレンティーナを見て、驚きながらの笑顔。   「不躾だな! 客人のヴァレンだ。世話になったので、屋敷で礼をしているところだ」 「わー! わー! わーーー!! なんてお美しい御方なの! わぁどうも!! 剣バカ兄貴の妹の、ローズですわ!!」  ラファエルを美少女にしたような、茶色い子犬のような娘。  ローズはバッと華麗に馬から降りて、ヴァレンティーナの前にやってきた。  マントの下には綺麗なオレンジ色のワンピースを着ているが、乗馬のためにズボンも履いている。 「ヴァレンです。旅をしていて、お世話になることになりました」  ヴァレンティーナより、かなり小柄だ。  ローズは一瞬、ヴァレンティーナを見つめてうっとりした後に、にっこりして握手する。 「かっこいい~~ですわ! スター劇団員みたい!」 「あはは……どうも」 「もう離せよ。すまん、ヴァレン。アリスは美形に弱いんだ」  離そうとしないローズの手を、ラファエルが間に入って離す。 「どういった御友人なのです!? 兄様にこんな麗しい御友人がいるなんて! ムキムキの脳筋バカばっかりだと思ってましたわ!」 「バカは余計だ! 大変だったんだぜ。ルークが行方不明になってな。助けてもらったんだ」 「えー!? ルークは大丈夫なの!? じゃあ誕生日パーティーは中止?」 「無事だよ。パーティーは今夜だ。昨日の夜中に軽く飲み会したけど、今日は豪華に肉とか食うぞ」 「無事ならば、肉やったー! って喜んでいいんですわね! 肉やったーー!!」 「兄の誕生日より、観劇を優先したやつに食べさせる肉はないんだが」 「まぁ~もういい歳した男の誕生日なんて……ねぇ? おほほ」 「こら! 言ったな!」  あけっぴろげな兄妹の話に、ヴァレンティーナは吹き出す。  相当に豪快な妹らしい。 「さぁヴァレン様、帰りましょう。私の馬にお乗りになられます?」 「こっちでいいんだ! さぁ、ヴァレン行こう……まったく騒がしいんだよ、この妹は」 「騒がしいのはお兄様譲りですわ」 「剣士がそんなお喋りなわけあるか」  ポンポンと二人の掛け合いは続くが、仲の良さが伺える。    「仲が良いのですね。ローズ様とラファエルは」   「普通だよ? ヴァレンとアリスほど仲良くはない」 「アリスさん? 他にもお客様が?」 「ヴァレンの妹分だ。とても愛らしい子だよ。お前はすぐに仲良くなりそうだ」 「まぁ! 兄様のお気に入り!?」 「そういうんじゃないよ……可愛いって言っただけさ」  ローズがワクワク顔になって、ラファエルが少し慌てたような顔をした。  しかし、その言葉はヴァレンティーナの胸を刺した。  先ほど『変わろうと……』言いかけた、ラファエル。  もしかして、彼はアリスを愛し始めているのでは……?  ずっとアリスに好意的で、彼女を褒めている。  ラファエルに惹かれている事に気付いてすぐの、悲しい気付き。 「この剣おバカなお兄様ったら、女子の話をしたことなんかなかったものですから! きゃあーーー!」 「だから、違うって! 言い方を上品にしたって剣バカって言ってるだろ!」  必死に否定するラファエルを、ローズが嬉しそうに笑う。  ラファエルはもう、呆れて溜息をついて何も言うのをやめた。 「あぁ~また雨が降ってきたな」 「冷たい雨だ……」  また黒い雲が空を覆う。  冷たい雨に、村がまた濡れていく。   「ヴァレン? 疲れたよな。帰ったらまた、みんなで楽しく過ごそう。何も心配はいらない」 「あぁ……ありがとう」  屋敷に三人で戻ると、ローズは三泊の旅行だったらしいが皆が久しぶりの再会のように喜んで迎えた。 「貴女がアリスさんね? ほんとに可愛い!」 「まぁ、ローズ様。アリスとお呼びください」 「アリス、すまないが仲良くしてやってくれな」 「ラファエル様、もちろんでございます。おかえりなさいませ」 「あぁ、ただいま」    すぐに仲良くなったアリスとローズ。  ラファエルもローズも、皆に愛されているのがわかる。  そしてアリスも、もう屋敷の中で人気者だ。  なんだか三人で笑う姿が眩しい。
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