勘当された二刀流令嬢・1

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勘当された二刀流令嬢・1

 ヴァレンティーナの婚約破棄は、貴族の間でそれは面白おかしい噂話になった。  話の尾ヒレ背ヒレはつきまくり。  『ヴァレンティーナが二刀流で白豚息子の首をはねたらしい。今いるのはニセモノだ』  『白豚息子が下半身二刀流で不貞していたんだろ』  『あの金髪女はポークビ◯チって影で言われてるんだって』  『ヴァレンティーナがミュージカルみたいに華麗に勇ましくステップを踏んで、御婦人達が黄色い悲鳴をあげたらしい』  『剣をもってきたメイドっていうのは実は精霊らしいぞ』  などなど、あることない事言いたい放題だ。  しかし、ヴァレンティーナを責めるような話は出てこない。  むしろ『ヴァレンティーナ令嬢はやはり男だった!』説が御婦人の間で喜ばれる話題になっている。  それに対して激怒したのは、もちろんヴァレンティーナの父だった。  ヴァレンティーナの家は、サンドラス家という名の伯爵貴族だ。  元々が武術に長けたサンドラス家は、過去の戦争での褒美として爵位を与えられた成り上がり組である。  そしてヴァレンティーナの曾祖母マルテーナは女でありながら二刀流の剣術を生み出し、剣術道場も築き上げた。  しかしここ最近では貴族が戦争に出る時代でもなく、剣術も実戦ではなく貴族のコンテストで見栄えのするものの人気が上がってきている。  婿養子であるヴァレンティーナの父は、元々が剣術が得意ではないのでマルテーナ剣術を習った事もない。  それどころか自分の天下になった今は、剣のサンドラス家という名前すら消そうとしている。     なので今回の婚約破棄、及びヴァレンティーナが二刀流令嬢と呼ばれ噂されている事が父にはどうしても許せなかった。 「バカか! バカなのかお前は!! 脳みそが剣ででもできてるのか!! というか、なんだその格好は!! ドレスを着ろ!」  花瓶の綺麗な花が散ってしまいそうな勢いで、父はヴァレンティーナを罵倒する。  ヴァレンティーナは今日も黒髪を後ろで一本に縛り、シャツにズボンのスタイルだ。  シャツはシルクでゆったりとして、彼女によく似合っている。 「紅茶にツバが入ります。もう少し声を抑えて頂いても聞こえますので。ドレスがお好きなら父上が着てはどうですか?」 「うるさい! 口答えをするなぁ! 今すぐ頭を下げに行くぞ!! 今なら間に合う!」  長い足を組んで座っていたヴァレンティーナが、眉をひそめる。  どうやら白豚息子は、失禁させられたと逆ギレしているらしい。  パーティーで一方的に辱められた娘を気遣う言葉は、一切なかった。 「向こうから愛する女性が他にいると婚約破棄を申し出たのですよ? 私が頭を下げてどうにかなるのですか?」 「可愛らしくごめんなさいして、第二夫人でもいいから! って言えばなんとかなるかもしれない!」 「……第二夫人? あの家程度で第二夫人がもてると?」  あの白豚息子の家は確かに伯爵家ではあるが、第二夫人をもてる程の家かは疑問だった。 「結婚してしまえば、こっちのものだ! 言っておけば第一夫人の座にお前が座る! 金髪の男爵娘は愛人にでもなるだろう」 「……下衆が……」 「なんだと?」 「いえ、ついうっかり本音が……。ならば妹のリカンナを嫁に出したらどうですか? あの子なら金髪男爵嬢と似た雰囲気ですし、彼もお気に召すのでは?」  ヴァレンティーナは提案する。
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