二刀流令嬢・ラファエルと出逢う・1

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二刀流令嬢・ラファエルと出逢う・1

「待て! 抜くな!」 「んっ!?」  剣に手をかけたラファエルに、ヴァレンティーナが声を出す。  その声に一瞬でラファエルが反応した。 「ラファエル!! 違う! やめて!! 野盗はもう死んだ!」 「あらら、死んでないけど……死んだようなものかな~? 野盗に襲われたけど、やっつけました~~!」  ヴァレンティーナは、この男が馬上で剣を抜きかけ止めたのを見ただけで相当な手練れだという事を見抜いた。  ルークとアリス、二人の言う言葉にラファエルは少し混乱した顔をする。    「え? 情報量が多すぎなんだが……ルークは無事なんだな!?」 「うん! 俺は元気だよ! このかっくいい人と可愛いお姉さんに助けてもらったの!」 「それは……よかった」  ラファエルはホッとして、すぐに馬を降りる。  そのラファエルに、ヴァレンティーナは詰め寄った。 「ルークは無事だったが、本当に既のところだった! 子供を一人で山越えさせるとは一体どういうつもりなんだ!? 君は!!」  ヴァレンティーナの怒りも当然ではある。  もしもヴァレンティーナが通りかからなかったら、野盗は一人のルークをどうしていたかわからない。  金を持っていなくても、遊び半分で嬲り殺しにされてたかもしれないし、奴隷のように売られたかもしれない。  怪我はなくても、びしょ濡れで疲弊している。  救助を待った彼の心細さを考えると、ヴァレンティーナは怒らずにはいられなかった。 「いや……それは、すまない」 「謝って済むことか!」   「ち、違うんだよ~~! ごめんよーーラファエル~~~!!」  ルークは安心もあってか、ポロポロと泣き始めた。 「どういう事なの?」  アリスが優しく肩を撫でる。 「今日は……今日はラファエルの誕生日でさ。いつもお世話になってるから……ラファエルの大好物の紫リンゴと豚肉の甘辛串焼きを食べさせたくって……それで内緒で屋敷を出たんだ」 「ルーク! お前……そうだったのか……」 「ごめんなさい、すぐに戻れると思ってたんだ。何度も此処は通ってるし朝飯前だと思ってたのに……車輪は壊れるし、今日に限って……人は通らないし……」 「天気が悪くなりそうだとは、知らなかったのか? それに、この馬車は修理予定で端によけてあったんだぞ……」 「知らなかった……う、ううごめんなさい」  野盗の罠がなくても、ルークの乗っていた馬車は壊れかけていたのだ。  子供が思い立って、そこまで深く考えずラファエルを喜ばせたい一心で飛び出したのだろう。 「ルーク……」 「ごめんなさい……うう」  ラファエルのマントも、雨に濡れ、フードも馬で駆ける間に邪魔になって外したのだろう。  茶色いクセっ毛は雨の雫が滴り落ちて、長い間ルークを探していたことがわかる。 「もういい、お前が無事でよかったよ」  ラファエルはルークを抱き寄せる。  ルークはラファエルに抱きついて、わんわんと泣いた。 「串焼きは買えたのか?」 「二本買った」 「そうか! ありがとうな。最高の誕生日だ」  ルークの革のカバンは、ヴァレンティーナの幌馬車に逃げた時にぶん投げられて落ちていた。  紙袋の中で、もう串焼きは崩れているだろう。  それでもラファエルは『ありがとうな』と何度も言ってルークの頭を撫でた。
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