グラウェ師よりオルビスへ

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ふむ、オルビスくんがそんな言葉に騙されてはくれるとは思っておらぬ。 きちんと話そうかの。 あの子は両親、周りの者たち、そしてワシの希望でもあった。 あの子の持つ力はそれほどの輝きを放っておった。 しかし同時にあの力は世の理の均衡を崩すほどじゃった。 ワシは封じた。 封じるための鎖は誰にも断ち切れないよう、すべての力を吸収する黒。 悪用する目的で近づいてくる者から覆い隠すための黒。 黒はあの子を護る強靭な壁じゃったが、息苦しいほどに重い枷でもあった。 それに加えあの子が両親から教わったのは、魔剣士の技でも魔法鍛冶の術でもない。 無駄に見えるほどに一つの作業に力を注いでおったじゃろう? 劣等生と呼ばれることも、誰にも理解されんこともあの子にとっては何でもなかったんじゃ。 そうやって力をひたすらに世界に戻す術を実践しておったんじゃよ。 ああ、気づいたかね、過去形で話したこと。 あの子は戦いのさなか、ワシに名を返した。 黒の名の持つ加護も枷も何一つ身に着けずに。 その名もなき力はこの世界を壊そうとした者たちへまっすぐに向かった。 あの子は何者でもなかった。 ただの純粋な力じゃった。 許せないかね? 都合のいい時だけ英雄に祀り上げられて、あの子が戦死したことにされたことが。 オルビスくんは優しいのう。 都合がよかったのはあの子にとってもじゃよ。 英雄扱いは嫌がっておったが死んだことにしてくれと案を出したのはあの子自身じゃ。 そうすれば大学にも組合にも規則にも縛られることなく動けるとな。 ああ、ぴんぴんしておるよ、規格外に丈夫な子じゃから。 今ごろはどこを旅しておるかなあ。 待て待て、オルビスくん。 そんな勢いで術を繰り出したらワシ吹っ飛ぶから。 言わなかったのは悪かったってば。 落ち着いてオルビスくーーーーん。 33a7601d-c9ed-4dbb-a213-d09bc616ea75
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