裏切り

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「……その、ごめん」 何故彼が謝罪するのか理解できない。 謝罪しないといけないのはあの二人だ。 それに、関係ないのにこんなことに巻き込んでしまった私の方こそ謝罪しないといけない。 「謝るのは私の方だよ。巻き込んでごめん」 「いや、桜庭こそ謝る必要はないだろ」……」 「あの二人が学校から出るのを確認するまではさ、悪いけど一緒にここにいてくれる?」 「ああ……」 「ありがとう。優しいんだね」 「いや……俺は優しくなんか……」 「そう?藤堂くんがそう言うなら、そうなのかもね。でも、今の私にはあの二人にバレないようあの場から連れ出してくれて、話しも合わせてくれて、一緒に隠れてくれることは充分優しいよ」 「……」 藤堂は私の言葉に何も言わなかった。 私もこれ以上何を言えばいいかわからず黙る。 小学生から基本男子とは話さなかった。 馬鹿にされたりするのが嫌で本当に必要最低限のことしか。 だからか、こんなときどんなことを話せばいいか全くわからない。 私のせいでここから動けないのだから、せめて話題でも提供しようと思うのに、男子がどんな話が好きなのかすら知らず頭を抱える。 「桜庭はなんで図書委員になったんだ?」 どうしていきなりそんな質問をしたのか、彼自身もわかっていない様子だったが、今の私にはそれが有り難かった。 その優しさが嬉しかった。 お陰でずっと強張っていた体から力が抜けた。 「本が好きだから。本を読んでいるときだけ全てを忘れられるの。図書委員になったのは一番最初に新しく入ってきた本を借りられるからよ。それとあの空間が好きだから。藤堂くんは?」 「俺は……じゃんけんで負けたから」 藤堂はバツが悪そうな顔をする。 「そう。本は読まないの?」 「あんまり……面白いのか?」 「私はそう思うから読むけど、他の人はどうかな?私の友達は漫画は読むけど小説は読まないし。好みじゃない?」 本が好きな人は多いけど、読まない人は全く読まない。 私は好きだから読む。ただそれだけ。 「そうか……なぁ」 「ん?」 「俺でも好きになれそうな本ってあるか?」 「あるんじゃない?」 この世に本は何千万とある。 一つくらい好きな本は見つかるだろうと思いそう答えた。 「なら、今度その本を一緒に探さないか?」 藤堂が話している途中で先生を呼ぶ放送が流れた。 そのせいで何を言ったのか聞こえなかった。
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