裏切り

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「……そろそろ帰ろう」 「うん。そうだね」 藤堂の顔は夕日のせいでよく見えなかったが、顔が赤くなってる気がした。 夕日のせいだと思い、たいして気にすることなく階段を降りようとしたそのとき、お腹が鳴った。 グゥウウー。 'あ、鳴った' あれだけ泣いたらお腹も空くかと思い、帰りに何か買って帰ろうと思う。 そこで気づいた。 彼もお腹が空いているのでは、と。 私のせいで下校できず、話し相手になってくれた。 せめてものお礼にご飯でも奢るべきだ。 そう思い、私は藤堂を夕飯に誘った。 「ねぇ、お腹空かない?お礼に何か奢らせて」 借りを作ったままなのは嫌だ。 私の性格上すぐに返したくなる。 もし「親がもう準備している」と言われたら諦めて他のにする。 もしそうじゃないなら、彼が嫌じゃないのなら今日のうちにお礼をしておきたかった。 「いや、その……」 藤堂は断ろとう口を開いたが、そのときタイミング悪くお腹が鳴った。 「……」 「……」 恥ずかしかったのか藤堂は顔を逸らす。 '生理現象なんだから恥ずかしがらなくてもいいのに' 同じくさっきお腹が鳴った私は恥じらうことなく堂々とした。 普通のことだからと。 「もう親御さんが夕飯の準備してる?」 「いや……」 「私と食べるのは嫌?」 「いや、そんなことはない」 「なら、お礼をさせて。さっき藤堂くんが私を助けてくれなかったら、私は惨めな姿をあの二人に見られてた。きっとすごく恥ずかしくて消えてしまいたくなるくらい嫌だったと思う。でも、藤堂くんのお陰でそんな思いをすることはなかった。だから、もし迷惑じゃなかったらお礼させて欲しい」 きっと明日になればまたいつもの関係に戻る。 なんとなくそんな気がする。 今日を逃したらお礼をするのが難しくなる。 だから、断らないでくれと祈りながら彼の返事を待つ。 「……わかった」 「本当!?ありがとう!何が食べたい?ラーメン?寿司?それともファミレス?何がいい?」 何がいいかわからず、とりあえず学校の近くにある飲食店を言う。 「じゃあ、ラーメン……」 最初にラーメンの名が出てきたので深く考えずにラーメンと言った。 「わかった。行こう」 私は彼の返事を聞かずに階段を降りていき教室に戻って鞄を取る。 だから、知らなかった。 彼がどんな顔をしていたのか。 「くそ。調子狂う……」 右手で真っ赤な顔を隠しながら「優しい」と言ったときの笑顔を思い出し、柄にもなく照れてしまう。
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