裏切り

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「……っ!何だよ。急にどうしたんだよ」 秋夜はイライラしながら吐き捨てるように言う。 私が浮気しているのを知らないと思っているからか、自分は何も悪いことはしていないという態度を取る。 その態度に腸が煮えくりかえるほど苛立ったが、ほんの少し期間付き合っていたし、茜とは長年の付き合いだったから浮気のことを知っているというのは言わないつもりだったが、全てぶちまけ自分がどれほど最低な男か教えてやろうかと思うも、やっぱりやめる。 ただ別れたなら、そこまで噂にならない。 でも浮気で別れたとなれば人は興味を持つ。 噂が広まり有る事無い事を言われる。 それは別に構わない。 他人にどう思われようとどうでもいい。 ただ、噂でも秋夜と茜と一緒に名前が出ることが耐えられない。 もうそれすら嫌だった。 「別に別れたいから言っただけよ。私はあんたのこともう好きじゃないの。ただそれだけよ」 「なっ!……おい!ふざけんなよ。!ちゃんと説明しろ!俺が納得できるように!」 秋夜は今にも殴りかかりそうな勢いで私を睨む。 ハッ。 その程度で私が怯えて謝ると思っているのか笑える。 私は秋夜とは真逆に凍てつくほどの冷たい視線を向けこう言った。 「何で私があんたに説明しないといけないのよ。付き合うのにはお互いの気持ちが必要だけど、別れるのには片方の気持ちだけでいいの。それでも説明して欲しいっていうなら教えてあげるわ」 私は秋夜に近づき胸を中指で押しながら、吐き捨てるように言う。 「あんたみたいなクズはいらないのよ」 その言葉を聞いた秋夜は顔から血の気がなくなっていき、一歩、また一歩とゆっくりと後ずさる。 '間抜け面ね' 私は秋夜の顔を見て鼻で笑いその場から立ち去る。 角を曲がるとそこには何故か桃花達がいた。 桃花達は慌てて隠れようとしたみたいだが、足が絡まったのか仲良く転けていた。 三人は笑って誤魔化そうとしたが、気まずい空気が流れた。 「……早く教室に戻ろう」 私は転けている三人を起こす。 「……巴」 桃花が心配そうに名を呼ぶ。 「放課後にちゃんと説明する」 私は自分でもわかるほど酷い顔で笑っているのがわかる。 でも、今は何も言いたくない。 少しだけ時間が欲しかった。 「わかった。戻ろっか」 「うん」
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