裏切り

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「巴。最初の試合は何時からなの?」 暫く楓を冷たい目で見ていた桃花が急に話しを振ってくるので驚いたが、すぐに「開会式が10時からで、私はシードだから11時くらいだったと思う」と答える。 「11時ね。了解。それに間に合うように行くよ」 「ありがとう。頑張るよ」 「そういえば、彼氏達も応援にくるの?」 芹那がふと思い出したように聞く。 「さぁ?どうだろう?来ないんじゃない?」 大会があることは教えたが、興味なさげな様子だったから応援には来てくれないだろうと誘うのをやめた。 「まぁ、どうせ来ても一緒に帰れないし。試合終わったあとはいつもの焼肉屋に行くじゃん」 私がそう付け足すと「確かに」と三人は同じタイミングで返事をする。 大会の後は焼肉に行くのが定番になった。 私は空手。桃花は柔道。楓と芹那は合気道。 三人が大声で応援するからと私より意気込んでいるのでつい吹き出すように笑ったそのとき、休み時間の終わりを告げるチャイムがなった。 先生が入ってきたので急いで席に着く。 私の席は窓際の一番後ろ。最高の席だ。 授業が始まって20分が経過した頃、芹那がさっき言った言葉が頭をよぎった。 「彼氏達も応援にくるの?」 本当はきて応援してほしい。 頑張れって言ってほしい。 でも、同時に来てほしくないと思った。 小学生の頃からずっと男子に「男女」「女のくせに強くて可愛くない」と言われてきた。 他にも色々空手をする自分を否定されることを言われた。 もし、秋夜(しゅうや)に空手しているところを見られてそんなことを言われたら立ち直れないかもしれない。 怖くてしかたない。 いつから自分がこんなに情けなくなったのかと思うほど弱くなった。 でもそんな自分も嫌いではないと思えるから、きっと他の人から見た私は間抜けに見えるだろう。 私は空を見上げながら早く放課後にならないかと思った。 今日は秋夜と放課後デートする日だから。
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