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「じゃあ、帰ろっか」
「そうだね」
薺に言われ、私達は下駄箱へ向かう。
「桜庭って電車通学?」
「ううん。徒歩だよ。薺くんは?」
「俺は電車」
電車、その言葉を聞いて私はホッとする。
別に嫌と言うわけではないが、どうしても女子の目が気になってしまう。
「じゃあ、坂降りたら別方向だね」
坂までなら、たまたま降りているだけだと勘違いしてもらえるはずだと思い、明日噂になることはないだろうと安心する。
「送るよ」
薺はさも当然のように言う。
「え……?いや、大丈夫だよ」
薺の発言に驚き、一瞬固まってしまう。
「でも、空も暗いし、流石に女の子一人で帰らせるのは心配だよ」
「それなら大丈夫だよ。私は強いから。空手やってるし。昨日の大会でも優勝したし。自分の身は自分で守れるよ」
だから送らなくても大丈夫、とは言わなかったが、察してくれと目で訴える。
「知ってるよ」
「知ってる?」
何を?と思い首を傾げる。
「桜庭が強いってこと。昨日の大会で優勝したってことも」
なんで知ってるの?と思ったが、噂になった原因が昨日の大会のせいだと気づき、それと一緒についでに流れたのだと思った。
「なら……」
「それでも女の子一人で帰るのは危険だ。心配だから送らせて欲しい。嫌なら、無理にとは言わないけど」
「……お、お願いします」
本当に大丈夫だが善意で言ってくれてる人に対して、自分の勝手な感情で傷つけるのはいけないと思い承諾してしまう。
それに私が強いと知っていても女の子扱いしてくれる優しさに、少しだけ心が温かくなってもう少しだけそういう扱いを受けていたかった。
それでも女子の怖さの方が勝り、どうか誰にも見られませんように、と祈りながら送ってもらう。
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