裏切り

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この声は……そう思い後ろを振り向くと予想通り、幼馴染の茜(あかね)がそこにいた。 近くには彼氏の秋夜もいた。 他にもいつも二人が一緒にいるグループのメンバーがそこにいた。 「茜」 「今日は学食なんだ。珍しいね。なに頼んだの?」 茜は笑顔で話しかけてくる。   「カツ丼」 私がそう言うと茜のグループの女達はクスクスと笑い出した。 なぜ急に笑い出したのかわからず私は首を傾げる。 面白いこと言ったつもりはないのに。 「カツ丼か。美味しいよね。私も久しぶりに食べようかな」 茜は私が持っているお盆に乗ったカツ丼を覗き込む。 「そうすれば。美味しいし」 私は食べたいなら食べればいい、そう思って言ったのだが、秋夜は「茜。そう言ってこないだ丼系のやつ全部食べれなかったじゃん。俺また食べるの嫌だからな」と言った。 「えー。だって食べたかったんだもん」 茜は頬を膨らます。 私は茜の可愛らしい言動に可愛いなと思いながらその光景を眺めていた。 私は黙って二人のやり取りを見ていたが、何を思ったのか桃花が私の前にスッと立った。 急にどうしたんだ、と思いながら桃花を見るとニコッと笑いかけられ、つられて私も笑い返す。 「巴。もう行こう」 桃花は私に見えないよう二人を冷たい目で見たあとそう言い、楓と芹那がいる席へと向かう。 「あ、うん。わかった。じゃあね」 突然その場から離れた桃花の後を追うように私もその場から離れる。 「なんだ?あいつ。感じ悪くないか?」 桃花に睨まれて秋夜は機嫌が悪くなる。 「……」 茜は秋夜の言葉に何も言わず、ただ私達の後ろ姿をジーッと眺めていた。 「ねぇ。早く並ぼうよ。食べる時間がなくなるよ」 その言葉で茜はようやく私達から視線を外し、列へと並んだ。
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