明石のタコにやきもちを焼く

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 元々彼はバス釣りが好きで、休みになれば車で琵琶湖へと通っていた。  その後、太刀魚・イカ・フグ釣りと好きな釣りの幅が広がっていき、今回はまっているのがタコ。  去年の8月の終わりに「フグの道具でタコ釣り用のエギだけ買ったらいけるし、タコ釣り行かへん?」と誘われ、やってみたら、これが異常に面白かったみたいで!そのままはまり、のめり、沼化…。 🐙 🎣 🐙🎣 🐙  明石では大体5月から8月末日までが船タコ釣りのシーズン。シーズンが始まって2週間に1回の割合で休みになれば誘い誘われ、ワンボックスの車に乗って、友達5人くらいで楽しそうに明石までタコ釣りに行く彼。それ以外の休みは釣具店巡りや彼の部屋でtakoTubeを見て釣りの勉強。  釣りだけでは足りなくなってきたのか最近はタコ料理(下処理から)を始める…彼の部屋で私が作る料理と彼のタコ料理がテーブルに並ぶ。  後片付けは私の担当で食器を洗ったついでに流しも掃除する。その時に排水溝にあるごみ受けに必ず絡みついている…。それは、彼が料理する工程で必ず出てくる墨。もうそれは、浮気相手の痕跡の様! 🐙 🎣 🐙🎣 🐙  ついこの間彼の家に行くと冷凍庫が増えていた。嫌な予感がして扉を開けてみるとやっぱりおった!タコ・タコ・タコ…凍ったタコ!!2週間に1回の割合でタコ釣りいってたら、そら冷蔵庫の冷凍室だけでは間に合わんわ!!!  タコ・蛸・たこ・tako・OCTOPUS・🐙(たこ)!彼が、彼の回りが、タコ一色になっていく。いつの間にか、部屋着もタコ柄(そんなんどこで見つけてきたん?)!!  彼の優先順位①タコ②から⑩迄もがタコに関する何かで、私の事はトップ10ランキング外かも…。誰や!!彼にタコ釣りをお勧めたのは!!  今までタコ料理とリアルタコが嫌いやったけど、今やタコに関する全てが嫌いになってしまった私。タコにやきもちを焼いて、段々心が真っ黒に染まっていく。 🐙 🎣 🐙🎣 🐙  今日彼が珍しくプレゼントをくれた。 「タコにはまってから、一緒にいても放ったらかしにしてばっかりでごめんな。この間仕事帰り、デパート行ったら、これ、売っててん。可愛かったし、はい!プレゼント!」 と言って、可愛く包装された縦横高さ約50センチ位の大きな包みを渡してくれた。ここ1年一緒にいてもタコばっかりの彼で、折れかけていた私の心が生き返った瞬間! (私の事忘れてへんかったんやーーーっ!) あまりの嬉しさ…あまりの嬉しさで半泣きになりながら笑ってお礼を言う。 「ありがとう!むっちゃ嬉しい!!中なんやろ?ここであけてもいい?」 「もちろん!気に入ってくれたら嬉しいんやけど」 ニッコリ笑う彼。包みを開けるのに妙な緊張で手が震えてくる。震えながらも包装紙を破らないようにゆっくり丁寧に開けていく。 「!!」 声にならない声を出し、固まる。 「そのぬいぐるみ可愛いやろー!普通タコのぬいぐるみって言ったら赤やん。でも、そのタコ、ベビーピンク!珍しいやろ?ほんで、まこちゃん好きな色やんか!もうこれは!って、思ってん!」 彼が言ってる言葉が私の耳に入ってこうへん…最後の砦…私の心の糸の最後の1本が『ぷっちーーーん』と切れた。 「まこちゃん?どうしたん?急に立ち上がって」 急に立ち上がった私に驚いている彼を尻目に、私は台所へ行く。そしてあるものを手にしてそれをコップへ入れ、それを我慢して口いっぱいに含む。そして、彼の目の前へ戻る。そして、彼の顔目掛けて口から思いっきり噴き吐き出してやる!………コントロールバッチリ!彼の顔に命中!! 「なっ、なっ、なっ!なんなんっ!?急に!?」 近くにあったティッシュペーパーを手にして顔を拭きながら驚きと怒りのこもった声を出す。 「なんで…なんで…なんでタコやのーーー!寄りにも寄って!!一緒にいてもタコばっかり!!そんなにタコが好きなんやったら、私いらへんな!タコと一緒にいたらええ!このベビーピンクのタコのぬいぐるみを次の彼女にしたらええねん!!ほんで、夏は冷凍タコ抱いて、暑い体冷やしてもらい!冬になったら寝る前に冷凍タコ茹でて、茹でタコ抱いて寒い体温めてもらい!ほら!もう私はいらんやん!!」 口から刺身醤油を垂らしながら、彼に別れを叫ぶ。こんなにぶち切れてる自分を彼に見せるのは初めてで、そんな私を見ている彼は、呆然として固まっていて。 「最後は、私もタコや!!アンタに墨吐いたったわ!むっちゃスッキリしたわ!ほんなら、バイバイ!あおい君とタコちゃんに多幸あれ!お幸せにーーー!!」 呆然と固まっている彼を尻目に、口から刺身醤油を垂らしているのも気にせず、私は荷物を手にして、彼の部屋を後にする。
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