始まりはいつも東から

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 大急ぎで現場へと急行すると、閑静な住宅街の一角に年季が入った喫茶店がぽつりと佇んでいる。  掠れた文字で『喫茶メトロノーム』と題された看板の喫茶店は、中が伺えない仕様となっていた。  メモの住所と何度も照らし合わせてみたが、どうにも此処が例の現場の様だ。  迷っていても仕方がないと踏ん切りをつけ、木造りのドアを開く事にした。  扉を開けるとカランカランという小気味良いベルの音と共に、珈琲の良い香りが鼻を刺激する。  外観と同じでレトロな雰囲気の店内には先客が二人居て、カウンター越しにマスターが物静かに会釈をした。 「いらっしゃいませ。どちらの席でもどうぞ」 「あっ、どうも。ありがとうございます」  深く渋い声で店主にそう言われ、取り敢えず席に着こうと改めて店内を見渡す。  地元の人達なのか先客の二人はテーブル席に居て、初老の刻まれた皺の深い男性と、眼鏡をかけた知的な女性がそれぞれの時間を過ごしている。  居座る場所がない気がした僕は、カウンターの一角に席を陣取る事にした。  メニュー表をマスターから手渡され中を確認してみると、色々な種類の珈琲といくつかの軽食が記載されている。  珈琲を飲みに来た訳ではない僕は、目に付いたアメリカン珈琲を適当に注文した。  豆を挽く音と本を捲る音だけの店内は、昼寝でもしてしまいそうなほど穏やかな空気が流れていた。  警官の姿も周辺にはないし、爆破予告があったと連絡を受けている様子もない。  通報は悪戯だったのだろうか。  半ば諦めかけていたその時、入口のベルが鳴り扉が開かれた。 「失礼します。このお店宛にお荷物を届けに来たんですが」  宅配員の男が可愛らしいラッピングが施された箱を手にし、マスターを目に捉えると声をかけた。  対するマスターは訝しげな顔をして、身に覚えがなさそうに首を捻りサインをしてそれを受け取る。  その光景に心臓が張り裂けそうなほど脈打つのが分かった。    配達員が去っていきマスターが箱を眺める中、僕は逸る気持ちを必死になって抑えていた。  あまりにも情報と状況が一致し過ぎている。  あの箱の中がもし爆弾だとしたら、それを知っているのは僕だけではないのか。  僕の気などしらずマスターは箱に手をかけ開けようとしていた。   「待ってください!その箱は爆弾です!!」  気付けば勢い良く立ち上がり、僕は叫んでしまっていた。  
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