恋と夕陽は西に落ちる

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 喫茶メトロノームへと通い始めてからというもの、私にはある変化が起こった。  今までにないほど執筆の筆が乗り、行き詰まりを感じていた才能が開花して行く気がしたのだ。  何処にいても彼のことを考えては、胸中の想いを紙に踊らせるのが日課となっていた。  恋焦がれるのも悪く無いと感じ始めていたある夜、その熱はついに暴走してしまった。  その日はマスターに「いつもありがとうございます」と珈琲を一杯サービスされた事に気分を良くし、飲めもしないワインを買って丸々一本空けてしまったのだ。  元々酒に弱かった私は当然酔いがまわり、あろう事か密かに書き綴った大量の恋文をお気に入りのティーカップと共に送ろうとしていたらしい。  タチが悪いことに断片的な事しか記憶になく、肝心の送ったかどうかが思い出せない。  確認しようにも翌朝にはばら撒かれた恋文に割れたティーカップとが部屋中に散乱し、判別がつかないほど荒れ果てていた。  心底困り果てた私は真相を突き止める為に、喫茶メトロノームへと足を運んだ。  もし私が送った物が見られでもしたら、何もかもがお終いだ。  穏やかではない心中を隠し本へと目を向ける。 見かけぬ若い男が入ってきたが、今はそれどころではなかった。    そして、ついにその時が来てしまったのだ。  入店を知らせるベルの音と共に街中でよく見かける配達員の制服が目に付く。  手には白を基調とした抱えれるほどの箱を持ち、明らかに女性的なリボンで装飾されていた。  間違いないと私は確信した。  なんとかしてあの箱の中身を見られないようにしなければならない。  焦る気持ちと早まっていく心音に、私はパニックに陥っていた。
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