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いつ席を飛び出してもおかしくない精神状態でいる私に、更に信じ難い言葉が耳に飛び込んでくる。
先ほど入店してきた若い男が「その箱は爆弾です!」などと言いふらし始めたのだ。
自ら警官だと明かした東条という男は、なぜだか得意げに状況を説明した。
どういう訳だかあの箱を爆弾だと思い込んでいるらしい。
あの箱の中身は違った意味での爆弾である事に変わりないが、私にとってはどんな爆発物よりも危険だ。
もはや手段など選んではいられなかった。
「待って!その箱は私のものです!爆弾なんかじゃありません!」
机に大きく手をついて立ち上がり、目一杯の声をあげた。
一気に視線が集まるのを感じ、彼とも目が合って恥ずかしさで身体が熱くなっていく。
「その…爆弾とかよく分からないですけど。兎に角それは私が間違えてここに送ったものなんです」
ポカンとする二人を見つめて、なんとか言葉をふり絞った。
「いやいや、ちょっと待ってください。それはおかしくないですか?間違えてお店に送るなんてそんな事ないでしょ」
「実際にあるから名乗り出ているんです。私の物なので中身を開けて欲しくありません」
こんな言い争いを彼の前でしたくはなかったが、もはやそれどころではなかった。
東条という男は眉間に皺を寄せ、まるで犯罪者を見るかの様な視線をこちらに向けた。
「僕は通報が入って来たんです。身分も明かしましたよね?危険ですから離れていてください。僕が確認します!」
「絶対に嫌です!プライバシーの侵害で訴えます。私の物を勝手に触らないでください!」
激しい押し問答が続いて、ついには東条と箱の奪い合いにまでなってしまう。
もはやこれが本当に爆弾であったとしても、渡す訳にはいかない。
この秘密を守る為であれば、私もろとも爆発してしまった方が幾分もマシだと思えた。
「二人とも落ち着いてください。箱は私宛の物です」
二人して言い争う傍らから私の耳に入って来たのは、胸をくすぐるほど甘く深い彼の声だった。
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