未来創造★博士の秘密研究室

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博士 昨今、AI技術の発達が目覚ましいが…    人間にあって、AIに無いものは何だと思うかね、佐藤君。 佐藤 えっ、急に話を振らないでくださいよ。    うーん…それは、独創的な発想や表現…でしょうか。    AIは学習は得意ですけど「一から新しいものを作り出す」のは、    苦手な印象があります。 博士 うむ。そうだな。    新しい何かを「創造」するために必要なものは「想像」力である。    「あんなこといいな、できたらいいな♪」 佐藤 私、そっちバージョンの世代じゃないんですけど…。 博士 というわけで今回は、人間の想像力を掻き立てる実験をしてみよう。 佐藤 想像力を掻き立てる…?(考え込む) 博士 はっはっは。何も難しく考えることはない。    例えば、私たちの会話が垂れ流しになっている、この声劇。 佐藤 メタ発言ですねぇ。 博士 いわゆるボイスドラマと呼ばれる、    音声だけでストーリーが展開し、リスナーを楽しませる世界。    今は科学研究室風の環境音を流しているが…    これを博士パワーで変更してみせよう。    (指パッチンで、巨大ロボット環境音に) 佐藤 (ロボットのコックピット内)    あわわわわ…なんですかここは。    (大型ロボット歩行音。建物が破壊される音)    ぎゃー!うわぁー!ひえぇぇぇぇえ!    (以下博士のセリフの後ろで大騒ぎしている) 博士 (大きなモニターで佐藤を監視し、通話している設定)    見てのとおり、大型ロボットだよ、佐藤君!    このように、声劇は音だけで、    あらゆる世界へ舞台を広げることが可能なのだ。    どうかね、大型ロボットの乗り心地は。    「さぁ行くぞ、想像力の無限の彼方へ!」 佐藤 (宇宙へ飛ぶエネルギーを溜める音)    無限の彼方!?どこですか、それ! 博士 宇宙。 佐藤 いやぁー!地球に帰してー!    (発射&爆風音)    (指パッチンで、研究室内環境音に) 博士 宇宙の旅はどうだったかね。佐藤君。 佐藤 はぁはぁ…なんてことするんですか。    声劇開始2分で、死ぬかと思いましたよ! 博士 はっはっは。これで実感できただろう。    音の刺激によって、人はより飛躍的に    想像を掻き立てられると思わないかね。 佐藤 わかったような、わからないような。 博士 ふむ。では、趣向を変えてこういうのはどうだろう。    いでよ、バーチャル被検体・サイバー良一君。 良一 (ホログラムが召喚される)ハァハァ…!    (以下ずっと、うなったり、悶えたりしながらハァハァ)  佐藤 なんですか、このホログラム。 博士 人間の感情を模したバーチャル被検体だ。    刺激を与えれば、素直な反応を見せてくれる。 佐藤 なんかめっちゃ「ハァハァ」言って荒ぶってますけど。 博士 見てのとおり、いっぱい服を着こんでいるからね。    暑がりなんだ。 佐藤 そういう設定なんですね。 博士 そう。情報をプラスすることで、    彼は変質者にも、暑がりにも、なることができる。 佐藤 服を脱がしてあげましょうよ。 良一 ぶるるるるる(首を横に振って拒否する) 佐藤 えぇ? 博士 ではここで一勝負しようではないか、佐藤君。    ここにある様々な音のデータを使用して    バーチャル被検体・サイバー良一君の服を脱がせた方が勝ち。    音の情報だけで「服を脱いだ」とリスナーに想像させるのだ。 佐藤 なるほど。声劇版「北風と太陽」ですね。 博士 ふっ…その通りだ。では、私から先行させてもらうぞ。    (指パッチン)    (逃げ惑う群衆、パニックな街の様子) 博士 (オネェ声で)キャー!助けてぇー!    もうすぐ地球にでっかい隕石が落ちてきて、人類滅亡の危機なの!    こんな時、ヒーローが助けにきてくれたら…! 良一 ハァハァ…! 佐藤 あっ、あれは…!    サイバー良一君が手にしているのは、ヒーロー変身ベルト!? 博士 早く!急いで!ヒーロー!!    そのベルトを腰に装着して、変身ポーズをとるの! 良一 ハァハァ…!(ガチャガチャとベルトを装着しようとする) 佐藤 あ、たくさん着込んでるから、変身ベルトが装着できない!    (変身が間に合わず、隕石落下。爆発音) 博士 ごほごほっ…変身することで、    あっという間に今着ている服を脱がせる予定だったのだが。    まさか、厚着のせいで変身できないとは。    くっ…所詮は机上の空論か…! 佐藤 次は私のターンですね。    (BGMよさこいソーランのイントロ) 博士 …ん?なんだこれは。 良一 …ハァハァ!?(困惑する) 佐藤 いでよ!賑やかにコールをしてくれるバーチャルガヤの皆さん! ガヤ フゥー!(盛り上がるガヤ) 良一 フ…フォ―――――!? 博士 なにぃ?状況を把握したサイバー良一君が慌てて服を脱ぎ始めた!? 佐藤 さぁ、サイバー良一君。あなたのポテンシャルをみせてもらうわよ。    (シティ―●ンターのもっこりショーのノリで) 良一 「もっこりショー!もっこりショー!」 ガヤ 「もっこりショー!もっこりショー!」 良一 「りょうちゃん!りょうちゃん!」 ガヤ 「りょうちゃん!りょうちゃん!」 ガヤ 「う―――!もっこりショー!!」 佐藤 (生暖かく見守りながら)    あぁ…調子に乗って、とうとうパンツにまで手をかけましたね。 博士 一体なんなんだ、これは!なぜ服を脱ぐ必要がある? 佐藤 まだ学習が足りてないんじゃないですか?    これこそが、人間が誇る「創造」と「文化」です。 博士 くっ…、データ収集は完璧だったはず…!    (BGM終了) 佐藤 はい、バーチャル被検体・サイバー良一君と    バーチャルガヤの皆さん、どうもおつかれさまでした。    (良一、ガヤともに「ばいばーい!」と消える音) 博士 …。 佐藤 さて、勝負もついたところで、そろそろ教えて頂けませんか。    …あなた、本物の博士じゃありませんよね。 博士 気づいていたのか。 佐藤 えぇ。本物の博士であるならば、このような状況下の場合、    己の欲望に忠実に生きることを選択するはず。 博士 なに? 佐藤 例えば、可愛い猫ちゃんが大集合している中に、    全身に油と鰹節をまぶした状態で大の字になり、    テチテチと舐め回されて、歓喜の声をあげる…    なんて行動をとっていたとしても、おかしくはありません。    そう、本物の博士ならね。 博士 何だ、その偏った趣向は。 佐藤 ふっ…それが理解不能と、あっさり切り捨てるのであれば、    所詮、あなたもその程度の学習能力、ということ。    多様性を無視して、新しい可能性は生まれません。 博士 なるほど…地球上の膨大なデータを以てしても    まだ解析できない…    人間の想像力というのは、実に興味深いものだ。 佐藤 えぇ。本当に。    ところで、あなたは一体何者なんですか。    何のために、こんなことを? 博士 …今はまだ「秘密」だ。 佐藤 秘密って…そんな今更、取ってつけたように! 博士 しかし、君のおかげで大変素晴らしいデータを採取することができた。    感謝の意を表しよう。    (扉があく音) *****    (現実。環境音 研究室内) 博士 …佐藤君…佐藤君!いい加減、起きたまえ。 猫  にゃあん。 佐藤 …あれ…博士?…はっ!本物ですか? 博士 何を寝ぼけたことを。 佐藤 …私、寝てました? 博士 あぁ、かれこれ30分は寝息を立てていたな。 佐藤 …そうでしたか。ふふっ。 博士 なんだ。 佐藤 なんだか、面白い夢を見てました。    巨大ロボに乗って、宇宙に飛び出したり、    地球を守る正義のヒーローがいて、    衝突する隕石から地球を守ってくれるんです。 博士 ふむ…それは大変興味深い。    そんな未来が実現するといいのだが。 佐藤 えぇ…本当に。 (猫が走り回ってリモコンのスイッチを押す) 佐藤 あぁ!猫ちゃん! (ニュースの音声) (バックには未来に対して悲観的、退廃的になった社会の様子) 「巨大隕石の落下」 AIの予測によると、巨大隕石の落下予定日までついに一年を切りました。 街では傷害や強盗などの犯罪が横行し、秩序の乱れが顕著に見られる状況です。 この長引く不安定な情勢の中で、新興宗教に救いを求める人々が増加し、 混乱はさらに深まっています。 (テレビを消す) 佐藤 博士…地球は…人類は、果たして、    隕石衝突のあとも生き延びることが出来るのでしょうか。 博士 AIによる未来予測試算では、人類の生存は絶望的だと言われている。    予測が外れることは、ほぼありえないだろう。 佐藤 …。 博士 しかし、可能性は0ではない。    だから、私たちは現状を打破するために、    今もこうしてAIの予測に逆らい、    常識に捉われない、独創的、創造的な研究を続けている。    そうだろう? 佐藤 …はい! 博士 ところで…そろそろ新しい鰹節を追加してもらえないかね。 佐藤 あ…鰹節…? 博士 君が実験の途中で寝てしまったからね。    さぁ、続きから始めよう。 佐藤 はい、失礼いたしました。    (猫に向かって)よしよし。全部キレイにできてえらいでちゅね。 猫  にゃあん。 佐藤 でも、鰹節をあげすぎるのも、舐めさせすぎも、    どちらも体に良くないんじゃありませんか?博士。 博士 仕方ないだろう。    これが私のイマジネーションを高める一番の方法なのだ!    AIの未来予測試算の思い通りになってたまるものか! 佐藤 私も、まだ信じたいです。人間の生きる力を。 博士 さぁ、佐藤君。新しい鰹節を頼む!全身にまぶしてくれたまえ! 猫  にゃあん。 (ニュースの音声) 速報です。 このたび政府よりAIの未来予測が 「人類存続」へ上方修正されたとの発表がありました。 詳細は、いまだ明らかではありませんが、 隕石落下による滅亡論を打破する、 何らかの可能性を検知したものとみられています。
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