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 オレが狼狽する中、中都サンは荷造を解く。 手伝いに来たんだから、ボサっとしてちゃいかんよな。 「オレは何しましょ?」 「えっとぉ……その、本って書いてある段ボールをお願い出来ますか? 中の物を本棚に並べて欲しいんです。順番は適当で良いので」 「はいはい、分かりました」  段ボールは2つ。 棚にブチ込んで良しなら、さっさとやっつけちゃいましょ。 で、段ボールの中から取り出した本は全て音楽書籍。 (ぅわ。たっけぇハード本ばっか! つか、この子、クラシックでもやってるのか? オレが学生時代に愛読した音楽理論の本とか満載だぁ) 「もしかしてぇ、音大生か何かですか?」 「ええ。まぁ、」 「へぇ! 新入生?」 「いいえ。2年です。 ハタチになったので、社会勉強に1人暮らしをしたくて」 「へぇ。エライねぇ。つか、こっから1番近い音大ってぇとぉM大だけど?」 「大当たり。M音大のピアノ科に通ってます」 「へぇ!」 (それってオレの後輩ってコトじゃーーん! 運命、運命!)  密かにテンション上がる。でも、口に出せないオレがいる。 彼女の手によって片付けられて行く日用品は どれも高価な物で、未来はきっと華々しんだろう。みたいな…… そんな感傷が まぁ、ひっそりと……心の中に芽生えてしまったりして。 (M音大っちゃぁ、その手の業界じゃエリート大学だ。 そこに通ってそこそこの成績で卒業した先輩が、泣かず飛ばずの音楽でメシ食らってる何て知ったら、この子、やる気 無くしちまうかもなぁ) 「将来はピアニスト?」 「出来れば」 「イイねぇ、頑張ってね」 「はい! 石神サンは?」 「ぇ?」  彼女がオレを見る。真っ直ぐに。 「……サラ、リーマン。―― しがない。ホント、しがないカンジの」 「しがない何て そんな。 初対面にも関わらず引越しを手伝ってくれる石神サンだから、きっと細やかな お仕事をなさってるんでしょうね。尊敬します」 「ぁ、、いや、ハハハ! 照れますねぇ、ハハ!」  ただ夢ばかり……煩悩ばかりを追っ駆けて生きているオレに細やかさ何て皆無なんだけど。 彼女の力強い視線に1度は目を反らしちゃったけど、上手い事フォローされてスッカリ顔を挙げちまうオレは存外ゲンキン者だ。
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