命の選択

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 検察官は論告求刑を行った。 「本件は、被告人の責ではない列車暴走事故に起因するものではあるとはいえ、分岐の操作は意図的であり、パニック状態であったことは認めるが、思考力がまったくない状態ではなく、分岐操作によって発生しうる事態は想定できたことは被告人も認めているところであります。従って、刑法百九十九条の殺人罪を適用し、被告人を懲役五年に処するのが相当であると求刑します」 「続いて、弁護人、どうぞ」  弁護人は最終弁論を行った。 「本件は、起こり得る被害を最小限にしようとする被告人の誠意に基づいて行われた行為であり、そこに私利利欲はなく、純然たる正義の心で行われたものです。結果、一人の命が失われたことは残念ではありますが、他に取り得る手段がない状況での行為であり、罰するのは相応ではないと考えます。よって、刑法第三十七条に基づき、緊急避難を適用、被告人の無罪を主張します」  いよいよ最終陳述である。  裁判官は被告人に向かってこう述べた。 「被告人は証言台に立ってください。これにて本件の審理を終わりますが、最後に何か言いたいことはありますか」 「川村さんが亡くなってしまったのは申し訳なく思います。でも、私は仲間を救いたくて、パニック状態ではありましたけど、ただそれだけを考えてレバーを引きました。殺したくて引いたのでありません。それだけはどうしても言っておきたいです」  審理は終了した。
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