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線路保線員、狭山勝典は今、まさにトロッコ問題に直面していた。
森林の中の線路は曲がりくねっており、見通しは非常に悪い。山間部であるため、携帯電話やその他の無線も使用できない。狭山たちは六人で作業をしていたが、本部への連絡があるため、狭山は五人を残し、線路上を一人で歩いて戻っていた。残った五人の作業員たちは、鉄橋の線路での作業を続けており、体を線路に固定していた。
山間部の曲がりくねった線路は登り坂になっており、三十分も歩いた狭山は汗だくになっていたが、ようやく見晴らしの良いところまでやってくることができた。
すると、線路の向こうから、来るはずのない車両がこちらに向かってくるのを目撃した。運転席に人影はない。いわゆる、無人の暴走列車だ。
狭山の頭の中は、真っ白になった。
車両を止める手立てはなかった。
また、線路の奥で作業している仲間たちに危険を知らせる術もなかった。
このままでは、仲間たち五人が轢き殺されてしまう!
なんとかできないだろうか?
周りを見渡してみる。
線路は分岐しており、手動のポイント切替装置がそこにあった。
このレバーを引けば、暴走列車の進路を変えて、五人を助けることができる。
しかし……
狭山は知っていた。
ポイントを切り替えた先の線路上でも、一人の仲間が作業をしていることを……
川村だ。川村がこの先で一人で作業をしているのだ。
何もしなければ、五人が犠牲になる。
レバーを引けば、一人が犠牲になる。
どちらにせよ、誰かが犠牲になる。
いったい、どうしたらいいんだ……
暴走列車はさらにスピードを上げ、こちらに迫ってくる。
狭山はパニックに陥った。
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