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「私は川村の妻です。五人が死ぬかどうかに関係なく、夫を殺した人を責めて何が悪いんですか! 先程、宣誓しました。何の偽りもなく証言すると。私は狭山の行為を許すことができません! それが偽りない、本当の気持ちです。いくら五人が助かったとしても、私の夫を殺した人は狭山です。狭山は、夫の命を天秤にかけて、死んでもいいって思ったからレバーを操作したんです! それが許せないんです! 私の言っていることって、そんなに間違っているんですか! 狭山の手で夫は殺されたんです! 夫を返してください!」
「証人は落ち着いてください」
裁判長が注意を促す。
感情的になり取り乱した美代子を見て、弁護人は満足したような笑みを浮かべ、こう言った。
「これで尋問を終わります」
傍聴席では、どよめきが起きていた。
被害者の妻に同情する声と、それはエゴなのではないかと責める声とが入り乱れていた。
「静粛に! それでは、被告人質問を行います。弁護人、お願いします」
弁護人が、被告人である狭山の前に立った。
「被告人にお尋ねします。先ほど、証人から、あなたには殺意があったとの主張がありましたが、それについてはどう思いますか」
「私は……川村さんを殺そうとしてレバーを引いたわけではありません。どうしていいのか、パニック状態だった私にはよく分かりませんでしたが、とにかく、たくさんの仲間を助けないといけない、そう思いました。それで、とっさにレバーを引きました」
「つまり、殺そうとして引いたのではなく、命を救おうと思って引いた。そういうことですね」
「はい。その通りです」
「川村さんを殺そうという気持ちはありましたか」
「ありませんでした」
「他に取れる手段はありましたか」
「ありませんでした」
「分かりました。以上で質問を終わります」
「では検察官、反対質問を行ってください」
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