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彼がそっと唇を離した。
テルヤの目はあの頃と変わらず、私を欲しがる目つきに変わっていた。
「……ダメだよ。私は夫も子供もいる身だよ」
「知ってる、ってこないだ言った」
「じゃあわかって……」
「ならどうして、こんなに力抜けてんの?」
私は彼の腕とシャツを掴み、膝が折れないようにするので精一杯だった。次にどうしたら私がいいなりになるのか彼は熟知している。
昔と変わらず彼のキスに感じてしまった自分がイヤになった。
「っあ……」
首筋に唇が這う。身体に電気みたいな痺れが走って思わず肩をすくめた。
「俺まだ諦めてないって言ったよね?」
耳元で囁かれる。
「……どうして? 私結婚してるのに。それに私達もう若くないよ……」
「爺さんになっても待ってる。人生の終わりに一緒ならいい」
彼が平凡な私にここまで執着する理由がわからない。彼の仕事なら周りに綺麗な女の人はたくさんいるだろうに。
また深いキスをされて、私は力が抜けて立てなくなる。
昔からそうだ。
この人とは身体の相性が良すぎる。一つ一つの刺激が強くて抵抗できない。
ましてや私はこういう事を夫とも何年もしていない。
久しぶりに車を運転すると怖いのに似ている。テルヤを上手にあしらうことができない。
「……ゴメン、我慢できそうにない」
熱い溜息をつきながら彼が言う。
こんな言葉、若者だけが言うものだと思ってた。
明かりを消してある奥のボックス席に押し倒される。
私達、二十年ぶりに会ったんだよね? それなのに。話もロクにしないでキスをして、こんな場所で抱き合おうとしている。
いい年齢の大人がする事じゃない。
「ねぇやめよう……」
「もう遅いよ。こんなになってるのに」
黒いタイトスカートの下のストッキングはとっくに引き破られていて、彼の指がショーツの隙間から私の溢れた部分を確認していた。
「ね、ダメ、テルヤっ」
私には夫がいる。最後の理性を振り絞って抵抗したけど、彼は私を知りすぎていた。
「ハナがそう言う時はおねだりなんだよね……?」
私が好きなやり方で指を動かす。
最初からそうだった。
この人は私の身体をどうしてこんなに知っているのだろう。
「あ……テル……ヤ……ほんとに……だめ……っ」
「ハナ……ダメじゃなくて好きの間違いだろ?」
彼が私の名前を呼ぶ。
それすら強い刺激で耳が熱くなる。
いつの間にか仕事着のベストと白いシャツのボタンを外され、体中を甘く噛まれながら、すっかり形の崩れた胸を彼はどう思っているだろう、と思う。
考え事などする隙を与えないように彼の指が私を翻弄する。
羞恥心で冷静になりそうだったのに、あっさりと引きもどされた。
「えっ……あっ、や……あああっ!」
テルヤのせいで簡単に頭の中が真っ白になってしまう。……怖い。彼に触れられて昔と同じように感じてしまう自分が怖い。
「……昔より感度良くなってない?」
テルヤが私から溢れた液体にまみれた手を舐めながら、恥ずかしくなるような事を言ってくる。
「そんなこと……ない……」
「あいつから仕込まれたの?」
「ちが……!」
夫は優しく抱く人だ。仕込むだとかそんな事はしない。
「あー、妬けるな。アキトシはお前を何回抱いたの?」
そう言って彼が私の中に入ってきた。
「知らな……い……っ、あぁっ……」
刺激が強すぎてすぐに声が出てしまう。彼の身体を押し返そうとするけれど力が入らない。
「教えてくれよ。俺よりヤッた回数多いんだろ?」
息ができないくらい奥まで来られて返事なんてできないまま、完全に抵抗をやめた私を見て、テルヤが低いざらついた声で囁く。
「……ねえ、俺とあいつどっちが気持ちいい?」
子供みたい……彼にはこういう所がある。
「んっ……そんな、の……っ……」
「……言えないの? 言わないの?」
私は何も言わず、筋肉に少し脂肪が乗り逞しくなった彼の背中に腕を回した。それが答えだったのに。
「……はい、時間切れ」
「あっ……テルヤっ、ダメ、それっ、や……」
気を失いそうな快感が襲う。
スイートルームで抱かれたあの時みたい。
意識が、途切れ途切れに、なる。
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